社会福祉法人フラット視察(組織づくりについて):千葉県白井市
26日に視察社会福祉法人フラットの視察を行いました。
前回は林理事長の福祉に対する理念についてお伝えしました。
今回は、各施設視察後にお話を伺った法人本部最高人事責任者の立松和樹氏の講演内容を基にまとめました。
なお、各事業所の視察については後日改めて伝えます。
以下に、社会福祉法人フラットの理事・立松氏による講話内容を要約しました。

社会福祉法人フラット 立松氏による「組織づくり」の講話要約
2025年5月、社会福祉法人フラットの理事であり、組織人事コンサルタントとしても活動する立松氏は、同法人がどのようにして理念を体現し、職員を巻き込んだ持続可能な組織づくりを進めているかについて講話を行った。その講話は、単なる採用や研修のテクニック論にとどまらず、法人の存在意義から現場のマネジメントの在り方にまで及ぶ深い内容であった。
はじめに:福祉業界を“良くする”ための二つの立場
立松氏は、社会福祉法人フラットの理事として経営や組織づくりを担うと同時に、「フォール」という会社を立ち上げ、福祉業界全体の組織人事課題の解決にも取り組んでいる。フラットへの参画は約1年半前からであり、もともとは組織人事の専門家として多業種にわたり支援を行ってきた経験を持つ。福祉分野は現在も学び続けている過程にあるとしながらも、外部からの知見を業界内にどう生かすかを主眼に、取り組んでいる。
組織課題の本質:「理念」と「つながり」
立松氏は、よくある組織課題の対応策として挙げられる「福利厚生を手厚くする」「理念浸透のために研修を行う」といった手段が、短期的には一定の効果があるものの、根本解決には至らないと指摘。持続的で強固な組織を築くためには、「理念と実務がつながっていること」が極めて重要だと説いた。すなわち、法人の存在意義(ミッション)から逆算して、どのような事業を展開するか、どんな人材が必要か、その人材をどのように育てるかという全体の「つながり」を意識する必要があるという。
「数・質・関係性」の3軸からなる組織戦略
立松氏は、福祉法人における組織課題は大きく以下の3点に集約されるとした。
- 「数」:仲間を集める=採用戦略
- 「質」:職員の成長を促す=育成戦略
- 「関係性」:個人と個人をつなぐ=チームビルディング
それぞれに対して、フラットで実践している具体策が詳細に紹介された。
【1】「数」:仲間を集める戦略 ― 新卒採用への注力
フラットでは、中途よりも新卒採用に強く力を入れている。中途採用は待遇面(給与・勤務場所等)が主な判断材料になりがちだが、新卒採用では理念やミッションを伝える接点が多く、価値観でつながる人材と出会いやすいという点で優れている。
実践内容:
- 採用担当者の情報共有体制:学生一人ひとりとの接点(セミナー参加、面接、メールなど)を全て記録し、次にどうアプローチするかを計画。
- 理事長自らが前線に立つ姿勢:林理事長がセミナーや面接を多数担当するなど、法人全体で新卒採用に本気で取り組んでいる。
- 理念に基づいた採用方針:学生には「本物の福祉をやろう」という価値観を伝える。マイナビ等の就活サイトでも理念を前面に出し、待遇面には極力触れない。
成果:
- 正社員約60名のうち、新卒社員はこの4月で8名が入職。
- 内定承諾後の辞退率は0%。業界平均と比較しても非常に高い理念共感率を誇る。
- 新卒エントリー数は100名規模。セミナー参加や面接に進んだ学生の15%が入職に至っている(業界平均5%)。
キーとなる要素:
- スピード対応:面接後は即日または翌日に内定通知。学生の関心を維持する工夫。
- コミュニケーションの質と量:関係構築に時間と労力を惜しまない姿勢が、最終的な成果につながっている。
【2】「質」:人材育成の取り組み
育成施策は階層別に設計されており、管理職層と若手職員で異なるアプローチをとっている。
管理職へのアプローチ:
- 月1回の育成会議:事業所長同士が集まり、部下ごとの育成状況を共有。個別の目標、モチベーション、課題点を洗い出し、次月の対応策を練る。
- 育成理論の導入:「教えるべきか」「励ますべきか」など、部下の状態に応じた育成方法を明文化。上司と部下の認識のズレを防ぐ。
若手職員への支援:
- 3日間の集中研修:福祉の基礎知識、障害特性、ビジネスマナーなどを網羅的に学ぶ。
- 毎月のフォローアップ面談:定期的に理事長らと面談を設け、振り返りと課題整理を行う。
人事制度の活用:
- 育成のための制度設計:評価表は全職員に共通する基礎行動(30項目)を明示。管理目的ではなく、自己成長と対話を促進するツールとして機能。
- 面談制度の徹底:全職員と管理者が月1回面談を実施し、目標や課題を明確化。
【3】「関係性」:チームビルディングと組織診断
職員同士の関係性やチーム力の向上も、離職防止や職場満足度に直結する。フラットでは、新たに「福祉の人事部」という考え方のもと、モチベーションサーベイシステムの開発に着手している。
目的と機能:
- 半年に1回の定期サーベイを通じて、職員の状態(個人・仕事・チーム)を数値で把握。
- チーム単位、事業所単位、法人全体での比較が可能。
- 単なる満足度調査ではなく、組織内の「改善の種」を可視化する仕組み。
質問構成(全25項目):
- 個人のニーズ:自己実現、承認欲求、仕事へのやりがい
- 仕事環境:職務特性、裁量権、達成感
- チームの状態:上司との関係、同僚との連携、心理的安全性
理想的な活用像:
- サーベイ結果を職場で共有し、自分たちで「良いチームとは何か」を話し合う風土をつくる。
- 人事や本部が介入せずとも、職場が自律的に課題解決できる状態を目指す。
総括:理念に基づいた自走型組織を目指して
立松氏の講話では、採用・育成・関係性という3つの要素が互いにつながり、理念を起点として一貫性を持って運用されていることが明確に示された。「待遇ではなく価値観でつながる仲間づくり」「指導ではなく対話を通じた育成」「管理ではなく自律を支援する人事制度」の構築こそが、フラットの目指す組織像である。
「人材を管理する」のではなく、「人材の可能性を引き出す」ための人事戦略。福祉業界が今後直面する慢性的な人材不足や離職率の高さといった課題に対し、フラットが提示するこの包括的な組織マネジメントのあり方は、他法人にとっても参考となるモデルといえるだろう。
