【開催報告】発達障害者支援法の未来を語る—2025年6月17日「発達障害者の支援を考える議員連盟 総会」
2025年6月17日、参議院議員会館にて「発達障害者の支援を考える議員連盟(以下、議連)」の総会が開催されました。議連事務局長を務める山本博司参議院議員の司会のもと、JDDnet(日本発達障害ネットワーク)をはじめとする7つの当事者・支援団体と関係省庁の担当者、そして多数の国会議員が一堂に会し、発達障害者支援法の改正に向けた論点整理と提言の共有が行われました。
輝HIKARIの金子代表理事も本議連の事務局として連盟の活動を支えています。

【関係団体 出席予定者】
・JDDネット 市川宏伸理事長、大塚晃・三澤一登副理事長、日詰正文事務局長など。
・全日本自閉症支援者協会 石井啓副会長
・日本自閉症協会 辻本真司理事・中野美奈子理事、樋口美津子事務局長
・発達障害者支援センター 全国連絡協議会 和田康宏会長
・全国言友会連絡協議会 斉藤圭祐理事長、中村泰介さん
・エッジ 藤堂栄子代表、小原輝子事務局
・全国特別支援教育推進連盟 横倉久副理事長
国会終盤、超党派の連携で未来を描く
総会冒頭、野田聖子議員(議連会長)は、「支援法が制定されて20年、改正からも10年が経過した今、法制度を現代に即した形にアップデートする時が来た」と語りかけました。近年、少子高齢化、教育の多様化、SNSや犯罪形態の変化など、社会の構造は大きく変わっています。「発達障害の支援だけが変わらないわけにはいかない」と野田議員は強調し、「今回は単なる制度維持ではなく、新しい支援の仕組みを作るきっかけにしたい」と述べました。
JDDnetからの提言:支援法改正に向けた7つの柱
続いて、日本発達障害ネットワーク(JDDnet)理事長の市川理事長と各団体代表より、支援法の改正に向けた主な論点が共有されました。
(1)発達障害の定義見直しとICD-11への対応
国際的な疾病分類(ICD-11)の導入により、発達障害の定義そのものの見直しが求められています。特に軽度知的障害や境界知能との区別、チック症、アスペルガー症候群、LD(学習障害)などを含めた多様な状態像への理解と明確な定義が急務です。発達障害の定義の変更(第2条関係)
・国際疾病分類(ICD-11)の適用により、発達障害の定義等を整理。特に知的発達症、自閉スペクトラム症、レット症候群、チック症候群の取扱い
(2)判定基準の全国統一と客観性の確保
知的障害の判断基準には大きな地域差があります。JDDnetは、「知能検査+適応行動評価」という2軸評価法の全国統一を提案。例えばIQ70未満という指標だけでなく、生活の適応力を測ることで、より実態に即した支援につなげることを目指します。
(3)支援手帳制度の整理
現在、発達障害に特化した手帳制度は存在せず、精神保健福祉手帳を代用する形です。特に児童期から支援が必要なケースにおいて、精神手帳の枠組みが本当に適しているのかが議論されました。また、手帳がなくても就労支援や学習支援が受けられる社会づくりも求められています。
(4)地域支援体制の再構築
発達障害者支援センターを中核としながら、全国どこでも等しく支援が受けられる仕組みを。地域間格差の解消が大きな課題であり、センター機能の強化、職員の専門性向上、マネージャー制度の法的明記などが提案されました。児童の発達障害の早期発見(第5条関係)、早期支援(第6条関係)・発達障害支援センターの機能強化(第14条関係)
(5)教育と就労における法整備
通常学級に通う子どもたちの中に、発達障害のある児童が8.8%存在すると言われています。通級指導や個別最適化教育の法的整備や、特別支援教育の担い手の養成が重要です。また、就労支援に関しては意思決定支援の制度化や、障害者手帳の有無に関わらず支援が受けられる体制づくりが論点に。家庭と教育と福祉の連携「トライアングルプロジェクト」を通じて、教育と福祉の強化など。
教育について(第8条関係)
・ライフステージを通した切れ目のない支援体制に教育期間の役割の追加など
就労の支援(第10条関係)
・障害者手帳のない発達障害の取扱い
(6)家族への支援と高齢化への備え
発達障害のある方々もやがて高齢になり、介護保険制度との連携や、安心できる居住環境(例:グループホーム)の整備が必要です。同時に、家族のメンタルヘルス支援や、親なき後問題への備えが課題として挙げられました。
(7)災害対応と法的支援
災害時の避難支援や情報提供の整備が不十分です。また、罪を犯した障害者への刑事司法プロセスでの支援や、取り調べ時の可視化・専門家の関与といった観点も、支援法で取り扱うべきとの意見がありました。専門的知識を有する人材の質の向上(第20条、第23条関係)、当事者団体支援や強度行動障害の専門的知識を有する人材の確保など
当事者・現場の声が突き動かす「リアルな提案」
本会議では、複数の当事者や家族の声が紹介されました。
● 唐澤氏(ディスレクシア支援)
ディスレクシア(読み書き困難)への理解が乏しく、学校教育において配慮がされないまま不登校や学業不振に至る子どもが多数いる現状を訴えました。「早期に平仮名・ローマ字・漢字などを段階的に評価する全国統一のアセスメント体制が必要」と提言。
● 斉藤氏(吃音支援)
「吃音を理由に教員からからかわれた」という報道を受けて、文部科学省への要望書提出を紹介。吃音に対する教員研修・法定研修での取り扱い強化を求めました。
各政党議員からの発言:現実と政策の接点
本会議では、多数の与野党議員が発言。中には自身の家族に発達障害や学習障害を持つ子どもがいる議員もおり、より切実な声が飛び交いました。
小山ちほ議員(立憲)
自身の子どもがディスレクシアで不登校になった経験から、「通級教室のありがたさ」とともに、「判定基準の地域格差」「2回以上の再評価制度の必要性」を強調。
宮口治子議員(公明)
重度の発達障害の息子の育児経験から、特別支援学校の放課後支援の地域格差、グループホームの人手不足、県境による支援制限の改善を訴えました。
鳩山紀一郎議員(立憲)
不登校の子を持つ親として「大人の発達障害」に触れ、「子どもの頃に支援が受けられていれば違ったはず」と。早期発見の体制整備の必要性を再認識。
三浦のぶひろ議員(公明・新事務局長)
発達障害者を「活躍できる存在」として捉え、雇用現場での理解や強みの活用が不可欠と発言。支援法の理念転換の必要性に言及しました。

閉会挨拶と事務局交代:支援法20年、次の世代へ
最後に、議連会長の野田議員が、「支援を受ける人から、社会を支える一員へ」という転換を改めて強調しました。
「この法改正は、障害のある方々が施しの対象ではなく、“納税者=タックスペイヤー”として誇りをもって生きられる社会を目指すもの」と力強く語りました。
長年事務局長を務めた山本博司議員は、今国会で引退を迎えるにあたり、「発達障害者支援法の改正は私のライフワーク。今後もOBとして関わり続けたい」と感謝の言葉を述べました。次期事務局長には公明党の三浦議員が就任し、今後はホールディング制(論点ごとの分科会方式)によって具体的な法改正に向けた準備を進めていく予定です。
私たち一人ひとりが当事者
この総会で印象的だったのは、「発達障害者は支援される存在」ではなく、「共に社会をつくる存在」だという前提が、参加者全員に共有されていたことです。
当事者、家族、支援者、議員、行政官——立場は違えども、誰もが「自分ごと」としてこの問題に向き合っていました。
制度や法律の見直しは専門的で時間がかかるものですが、その根底には一人ひとりの人生があります。「共生社会の実現」という大きなビジョンを、誰一人取り残さない形で具体化していくために、この議連の動きは今後ますます重要になっていくでしょう。
私たち自身もまた、理解と関心を深め、共に歩んでいくことが求められています。
なお、今回の山本博司参議院議員のご勇退に関連し、金子訓隆代表理事も事務局の運営を一旦卒業となります。この運営については後生の意識ある方々へ繋いで参りたいと思っています。