てんかんと共に生きる仲間の社会参加にエールを
以下は、本年1月12日、鳥取県米子市で行われた、あいサポートとっとりフォーラム25の講演で、『てんかんと共に生きる仲間の社会参加にエールを』と題して、ご講演をされた、前垣義弘(鳥取大学医学部脳神経小児科教授)のお話しに基づき、「癲癇[てんかん]」について、講演内容を専門医の視点からわかりやすくまとめた要約です。全体としては、癲癇[てんかん](機能性神経症状障害)という疾患の特徴、診断・治療・支援のポイント、そして発作時の対応方法について詳述されています。以下、主要な内容を約5000文字程度でまとめます。

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【1. 疾患の基本概念と背景】
講演者はまず、障害や発達の問題に対する考え方として、「普通の人・子どもが持つニーズを満たすための配慮や手助けが必要な普通の方」という立場が最もしっくりくると述べています。癲癇[てんかん]という疾患も、特殊な病気ではなく、誰にでも起こりうるものであり、実際に日本全国で数十万~100万弱の患者が存在すると推定されています。さらに、障害がある方(支援対象者)との双方向性の関係がある点にも触れ、医療や支援のネットワーク構築が重要であると強調されています。
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【2. 癲癇[てんかん]という疾患の特徴】
癲癇[てんかん]とは、脳の異常な働きが原因となり、発作という形で一過性の神経症状が現れる病態です。主な特徴としては:
・発作は、数十秒から2~3分程度と短時間で現れ、発作時のみ症状が認められ、発作がない間は全く問題がない場合が多い。
・症状は多種多様で、全身の痙攣だけではなく、顔だけの痙攣、よだれの発生、嘔吐、意識消失、あるいは場にそぐわない行動など、患者の年齢や状態によって異なる。
・発作は治療しなければ繰り返す慢性疾患としての側面を持ち、発作の形態や頻度は、患者ごとに非常にバリエーションがあります。
また、癲癇[てんかん]は多くの場合、血液検査やMRI、脳波検査などで原因が特定できない(原因不明)ことが多いのが特徴です。特に小児の場合、発作のほかに発達障害(脳性麻痺、知的障害、発達障害など)と併存するケースが多く、併存症の程度が強いほど癲癇[てんかん]の合併率が上昇する傾向にあります。
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【3. 疫学と原因の年齢別特徴】
講演では、癲癇[てんかん]の有病率について、先進国では概ね0.6~0.7%、すなわち100人に1人前後という数字が示され、非常にありふれた疾患であると説明されています。
・発症年齢は大きく2つのピークがあり、高齢者(60〜70代以降)と、年少児・子どもの両端で見られる。
・高齢者では脳卒中や認知症、脳血管障害が原因となることが多く、成人以降は血管障害や認知症に関連して発症する場合が多い。
・小児・少年期では、原因が特定できる割合は約4割程度で、生まれつきの染色体異常、先天性異常、出産時の低酸素性脳症、さらには生後の頭部外傷や脳炎などが原因として挙げられます。約6割は原因が特定できず、健康な状態から突然発作が起こるのが一般的です。
・青年期・思春期では、新規発症は比較的少なく、時に脳腫瘍などの後天性の脳障害が見つかるため、頭部画像検査が必須となります。
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【4. 発作の症状と診断のポイント】
癲癇[てんかん]の発作は、従来「全身痙攣」=「癲癇[てんかん]」と考えられがちでしたが、実際には症状の多様性が非常に大きいです。
【小児の場合】
・最も多いのは、顔だけが痙攣してよだれが出るパターン。
・次に、痙攣は見られずに嘔吐や目が酔い、顔色が悪くなり反応がなくなるパターン。
・また、意識のみが消失するケースもあり、痙攣のない発作が癲癇[てんかん]である可能性が高い。
【青年・成人・高齢者の場合】
・青年期では、全身の痙攣が比較的多いが、部分発作(焦点発作)も多く、症状の分布により脳波や症状の聞き取りで判断する。
・高齢者では、自律神経系の失神や心臓機能の一過性低下により意識障害が起こる場合もあり、癲癇[てんかん]と区別するための総合的な判断が必要です。
診断には、詳細な症状の聞き取り、発作パターンの反復確認、脳波検査、頭部画像検査、必要に応じた遺伝子検査や血液検査が活用されます。ただし、特に脳波検査は万能ではなく、小児の場合に繰り返し検査することで78%程度の異常が確認されるという数字も示されています。
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【5. 治療戦略と薬物療法】
治療は基本的に薬物療法が中心となります。全体の約70~80%の患者で薬物により発作が止まるとされていますが、治療初回で発作が止まる割合は約50%、2回目で約13%と、完全にコントロールできる患者は限られていると説明されています。
・もし1年程度の治療で十分な効果が得られなければ、外科的治療(手術)の適用を検討するのが現代の考え方です。手術により約80%の改善が見込まれるとされていますが、手術適応とならない場合は、特殊治療や他の薬物療法へと進む必要があります。
・治療抵抗性の患者、すなわち薬物で発作が抑えられない場合は、単に発作そのものだけでなく、併存症やQOL(生活の質)全般に対する配慮が求められます。患者ごとに、心理的ケアや社会的支援、生活支援も同時に行う必要があります。
・初期投与時の副作用(めまいや眠気、場合によっては発作の増加)についても、慎重な管理が必要であり、外来での経過観察や報告が重要です。
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【6. 発作時の対応と急性期のケア】
講演の後半では、発作時の具体的な対応について詳述されています。特に、発作が起きた際に救急車を呼ぶ必要は基本的に低く、発作は通常数十秒から3分程度で自然に収まるため、周囲の人々は落ち着いて見守ることが重要です。
・もし発作が起こった場合、まずは患者が安全な環境にいるかを確認し、危険物(熱いもの、刃物、硬い物など)を取り除くことが推奨されます。
・急に発作が始まり、患者が歩こうとした場合などには、自然に寄り添い、無理に制止するのではなく、危険を回避するために前に立って誘導するなどの配慮が必要です。
・かつては、発作中に口内に物や指を入れて舌を噛まないようにする処置が行われていましたが、これらは逆に怪我の原因となるため、現代では絶対に避けるべきと強調されています。
・救急車が必要となるのは、重症の「重石発作」のように、何分も発作が続く場合に限られるとのことです。また、最近では座薬だけでなく、口から吸収される液剤など新しい薬剤が開発され、急性期の対応も改善されつつあります。
・発作が起こった際は、可能であればスマートフォンで動画撮影を行い、後日医師に状況を確認してもらうといった記録を残すことも推奨されます。さらに、発作の様子を観察するためのチェックリストや記録用のフォーマットが用意され、1ヶ月単位で記録することで、発作の頻度やパターン、発作時の状態を詳細に把握し、治療計画の見直しに役立てることができます。
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【7. 生活指導と日常のサポート】
癲癇[てんかん]という疾患は、発作そのものだけでなく、患者の日常生活や心理的側面にも影響を及ぼします。講演者は、発作予防やQOL向上のため、以下の点を強調しています。
・過度な疲労、深酒、睡眠不足はどの病気においても悪影響であり、規則正しい生活、朝の光を浴びる、適度な運動、カフェインやアルコールの摂取を控えることが重要です。
・発作が起こったときに「今日はだめだ」と極端に発作にとらわれず、楽しい生活を送る工夫をすること。例えば、朝食をしっかりとる、好きな音楽を聴く、人との交流を楽しむなど、前向きな生活習慣を心がけることが、結果として発作の予防につながると述べられています。
・また、支援者や家族、事業所などの現場で、発作があった場合に薬物だけに依存せず、見守りや記録を徹底し、患者自身も自分の発作パターンを把握できるようにサポートすることが大切です。
・さらに、癲癇[てんかん]に関する啓発活動や情報提供(専門書、ポスター、DVD、インターネット上の情報サイトなど)を積極的に活用し、患者や支援者、医療従事者が正しい知識を持つことが、治療や支援の質の向上に寄与するとされています。
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【8. 地域医療と連携体制】
最後に、講演者は、癲癇[てんかん]に対する治療や支援には、医療機関単独ではなく、地域全体でのネットワーク構築が不可欠であると強調します。
・定管地域診療連携体制整備事業や、癲癇[てんかん]協会、癲癇[てんかん]情報センター、さらには各大学や自治体による啓発活動が行われており、これらの取り組みが患者の治療や生活支援に大きく貢献しています。
・また、医療費の減免制度など、経済的負担を軽減する仕組みも整備されているため、患者やその家族は、必要に応じて主治医や地域の相談窓口と連携しながら、総合的な支援を受けることが推奨されます。
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【総括】
本講演では、癲癇[てんかん]という疾患が「誰にでも起こりうる、非常にありふれた病気」でありながら、その症状や原因、治療反応、さらには発作時の対応や日常生活でのサポートといった面で非常に多様であることが示されました。
・小児・青年・高齢者といった各年代ごとに、原因や発作のパターン、必要な検査や治療法が異なるため、専門的な知識と経験に基づく診断が求められます。
・薬物療法が中心となるものの、治療抵抗性の場合や副作用への対策、生活全般の支援など、医師、看護師、ソーシャルワーカー、支援者が連携して包括的なケアを行う必要があります。
・また、発作が起こった際の適切な対応や、患者自身・周囲が発作の様子を正確に把握・記録することが、治療の改善や安全管理につながる点も重要です。
・さらに、地域全体での連携体制や啓発活動、情報提供の充実により、癲癇[てんかん]患者が社会でより有意義な生活を送るための環境整備が進められていることも強調されました。
このように、癲癇[てんかん]は単に薬物でコントロールするだけの病気ではなく、患者の心身両面にわたる支援と、医療・福祉・地域社会の連携が不可欠な疾患であるという点が、本講演の大きなメッセージと言えます。
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以上が、講演内容を専門的視点で整理した要約となります。患者一人ひとりに合わせた治療・支援を進めるとともに、正しい知識と連携体制を整備することが、癲癇[てんかん]に苦しむ方々のQOL向上につながることを、改めて認識する必要があります。