フォーカス社会保障:強度行動障がいへの支援広げるには
3月14日付けで強度行動障害について公明新聞にて掲載されました。
記事中で、紹介されている国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」へは、2023年7月14日に、山本博司参議院議員ら8名の国・県・市議会議員とともに輝HIKARIの金子訓隆代表理事、大谷貴志理事の2名も施設訪問をしました。

フォーカス社会保障:強度行動障がいへの支援広げるには
2025/03/14 4公明新聞 4面
自傷や物を壊すといった行動を繰り返す「強度行動障がい」の人を支援するため、専門人材「中核的人材」を養成する国による初の研修が2月に修了した。強度行動障がいを巡る現状を探るため、研修が行われた国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」(群馬県高崎市)を取材するとともに、鳥取大学大学院の井上雅彦教授に話を聞いた。
■自傷、他害、物を壊す……「環境整えれば穏やかに」/のぞみの園(群馬・高崎市)
20代男性のAさんが、のぞみの園を訪ねたのは2022年のことだった。自傷や他害が激しくなって入院を経験し、大けがを負うリスクも高かったからだ。同園は、強度行動障がいのある人を一定期間受け入れ、地域での生活に移行できるよう支援している。
入所前のAさんについて、同園の田中正博理事長と日詰正文研究部長は「バスに乗り降りする際には飛び出したり暴れたりしてしまうから、職員に両手を握られながら移動していた」と振り返る。
Aさんは視覚的情報の理解が強い半面、話し言葉でのコミュニケーションや、見通しが立たない状況に置かれることが苦手。例えば、DVD動画を見ている時に声を上げて自分の頭をたたき始めることがある。これは、視聴を邪魔する周囲の音が不快な刺激となり、困っているために起きたという。
同園ではこうしたAさんの特性を踏まえ、スケジュール表や行動内容が書かれた絵カードなどをあらかじめ用意。コミュニケーションや作業の際に活用することで不安を軽減した。
入所から2年がたち、外出先でも落ち着いて過ごせるようになったAさん。自傷もほとんど見られなくなり、のぞみの園を後にした。
強度行動障がいのある人は閉じ込めや拘束などを受けることが多い【図参照】。しかし、田中理事長らは「環境を整え、本人が心地良く過ごせるようになれば、行動は穏やかになる」と話す。
厚生労働省によると、同障がいに関連した支援を受けている人は全国で延べ8万9434人(23年10月時点)いる。
■核となる人材を地域に/国による初の養成研修が修了
強度行動障がいの支援に当たっては、事業所の職員らの専門性を高めることが重要だ。そこで国は適切な指導や助言ができ、現場支援で中心となる「中核的人材」の育成に乗り出している。モデル事業を経て24年度から、のぞみの園で養成研修が本格的に始まった。
この研修は、障がい特性の理解や支援計画の検討などをテーマに全6回(5回はオンライン)で構成され、各都道府県から推薦された計94人が受講。これに支援経験が豊富な人が指導者役として加わったほか、事業所の管理者らも参加した。
注目すべきは、学んだ内容を受講者が事業所に持ち帰り、実践に生かす工夫がある点だ。指導者役が随時、受講者から質問や相談を受け付け、受講者の事業所も直接訪問する。これらが、受講者の支援技術の向上に大きく寄与しているのだ。
研修に参加した、山梨県の障がい者支援施設で働く長田由佳さんは「チームで支援を実践していく大切さを学んだ。当事者の生活全体にも一層目を向けるようになった」と語っていた。
24年度の障害福祉サービス等報酬改定では、中核的人材養成研修の修了者を配置し、より支援困難度の高い人を受け入れた事業所への評価が新設されている。公明党は、政府への提言や国会質問を通して支援強化を訴えてきた。
<インタビュー>
■行動の意味、理解しよう/鳥取大学大学院 井上雅彦教授
――強度行動障がいについて知ってほしいことは。
強度行動障がいのある人の多くは知的障がいのため、言葉だけでコミュニケーションを取るのが苦手である。例えば、自分の思いや要求が相手にうまく伝わらない場合、言葉の代わりに行動でコミュニケーションを取ったりする。嫌な音や匂いを遮断するための場合もある。
こうした行動は、一見やめさせなければならない問題行動として捉えがちだが、本人の視点から見ると、さまざまな意味がある行動だということをまず知ってほしい。
――支援のポイントは。
行動の意味を理解せずに介入することで、意図せず抑圧的な対応となってしまう恐れがある。行動がどんな意味を持って起きているかをきちんと知ることが重要だ。これを「機能的アセスメント」という。支援者間で共通の理解が欠かせない。
その上で、一人一人の行動の意味に合わせた支援の工夫がポイントになる。一つは、行動を起こさなくても済むように周囲の環境を調整すること。もう一つは、文字やイラスト入りの絵カードを使用するなど、行動の代わりとなる表現方法を獲得できるよう支援することだ。あとは、安心して過ごすために余暇を充実させる支援も大切だ。
■家族や職員の心の健康も支えて
――中核的人材の評価は。
強度行動障がいに対応できる専門人材の養成に向け、国が本格的に乗り出したことに大きな意味があり、第一歩として評価する。研修には機能的アセスメントの内容も組み込まれている。それぞれの地域で中核的人材を活用する仕組みを、いかに構築できるか、今後に期待したい。
一方、家族や事業所の職員らのメンタルヘルス対策も課題だ。行動障がいのある子どもを持つ親や支援者は、高い不安やストレス状態にある。孤立しやすい家族や事業所を外から支える仕組みが重要であり、専門人材にはこうしたスキルが求められる。事業所側も専門人材の助けを借りながら、チームで対応に当たってほしい。
――地域全体で支援を充実させるためには。
当事者を施設入所などで隔離するのではなく、地域で安心して生活できるよう、選択肢が広がることが望ましい。
ただ、地域に目を向けると、そもそも支援につながれていない人がいる。21年度の全国の市区町村への調査では、障害福祉サービスなどにつながっていない人は1自治体当たり0・5人、つながっているものの、ニーズが満たされていない人は同2・98人と算出されている。行動が強くなる前の早期から支援することや、自治体で当事者の居場所を確保することなどにも力を入れてほしい。
