九州地方日本財団「国立国会図書館 蔵書デジタル化事業」視察報告:北九州市

開催日: 2026年3月23日

場所: 北九州市戸畑区「インクルとばた」(就労継続支援B型事業所)

参加者:・ 山本博司氏(前参議院議員・日本財団アドバイザー) ・村上智則氏(日本財団 准チームリーダー) ・大塚勝利氏、松下正治氏(福岡県議会議員) ・社会福祉法人北九州手をつなぐ育成会(小松啓子理事長、ほか関係者) ・セルプセンター福岡(宮地博司就労支援部長)・特定非営利活動法人輝HIKARI 代表理事金子訓隆

1. 視察の目的と背景

本視察は、日本財団の支援を受けて福岡県内で展開されている「国立国会図書館(NDL)蔵書デジタル化プロジェクト」の進捗を確認し、知的障害者によるデジタル分野での就労支援の可能性を広く発信することを目的としています。 福岡県は、全国でも先駆的な「福岡モデル」として県内5箇所に拠点を設置しており、北九州拠点はその重要な一翼を担っています。

2. 福岡モデルと共同受注の仕組み

セルプセンター福岡の宮地部長より、本事業の全体像について説明がありました。

  • 工賃向上のための「共同受注」: 1つの施設では受けきれない大規模な仕事を、複数の施設が連携して受注する仕組みです。 これにより、福岡県の不名誉な記録であった「低い平均工賃」の改善を目指しています。
  • 日本財団による強力なバックアップ: 作業に必要な高機能スキャナー(書籍用、大判図面用、マイクロフィルム用など)やサーバー、PC等の機器は、日本財団からの100%助成によって整備されています。
  • 官民連携の枠組み: 2021年に福岡県と日本財団が締結した連携協定に基づき、県が場を開設し、セルプセンター福岡が運営を、日本財団が機器整備を支援する形で展開されています。

3. 北九州拠点の進捗と独自のアプローチ

北九州拠点のデジタル事業について、横田課長より詳細な報告がありました。

  • 「ワンチーム」での運営: 6法人7施設が協力し、知的・身体・精神の3障害すべての方が参加する体制を構築しています。
  • 圧倒的な成果: 令和6年度のNDL業務では、目標50万コマに対し、110%となる55万コマ(約110万ページ)を完遂しました。
  • 可視化によるモチベーション向上: スケジュールや個人の実績を数値化し、日々フィードバックを行うことで、利用者自身の自信と意欲に繋げています。
  • 「働く場」としての環境づくり: 施設的な呼び方(〜くん、〜ちゃん)ではなく、一人の「職業人」として敬称をつけ、丁寧な言葉遣いで接するコミュニケーションを徹底しています。 「何度でも質問してください」という安心感の醸成が、ミス(エラー)の少なさに直結しています。

4. 障害者の「未知の可能性」と工賃・就労実績

小松理事長は、知的障害者がデジタル作業を担うことへの意義を熱く語られました。

  • 工賃の大幅向上: B型事業所の平均工賃(約2万円)を大きく上回り、デジタル事業にフル参加した方の中には、月額10万円を超える工賃を実現したケースも出ています。 時間単価換算で1,000円を超える成果を出しています。
  • 一般就労へのステップ: 本プロジェクトを通じてスキルを磨き、この3年間で福岡県全体で10名以上、北九州拠点でも4名の方が一般企業への就職を果たしました。
  • 可能性の発見: 「知的障害があるから難しい」という偏見を覆し、適切な環境と支援(スキャナーの操作習得への賞賛など)があれば、複雑なフランス製スキャナーも使いこなせるようになることが実証されました。

5. 意見交換:福祉現場のDXと今後の展望

視察後の意見交換では、今後の課題と期待について議論されました。

  • 福祉現場の事務負担軽減: 小松理事長からは、職員が利用者への直接支援に注力できるよう、個別支援計画や記録業務への生成AI・IT技術の導入、およびそれに対する国・県の補助金の必要性が提案されました。
  • ITと福祉の融合: 本法人(輝HIKARI)の金子代表からは、システムエンジニアとしての視点から、IT機器のインフラ管理や障害対応の体制、また埼玉県等での同様の取り組み(B型拡大ステーション)との連携について質問・意見が出されました。
  • 全国への波及: 山本博司氏は、障害者優先調達推進法をベースとした本事業を、国立国会図書館だけでなく自治体の公文書デジタル化等にも広げ、全国1700余りの自治体で展開できるよう尽力する決意を述べられました。

まとめ

今回の視察を通じて、デジタル化事業が単なる「作業」ではなく、障害のある方々の「誇り」と「自立」を支える強力なツールであることを再確認しました。特に、知的障害のある方々が「ワンチーム」として高い品質の成果を出し、それに見合う対価を得ている姿は、今後の福祉のあり方を象徴するものです。

輝HIKARIとしても、こうした先進的な事例を学び、IT技術を活用した障害児・者の新たな就労モデルの構築や、現場職員の負担を軽減するDXの推進に、引き続き取り組んでまいります。