埼玉県内における地域生活支援拠点等の取り組みと課題について:岩上洋一 理事長講演内容

23日夜、当団体が主催して行われた埼玉県内における地域生活支援拠点等の取り組みと課題について」と題した政治学習会を開催しました。

学習会:「埼玉県内における地域生活支援拠点等の取り組みと課題について」:さいたま市

23日夜、埼玉県さいたま市にて特定非営利活動法人輝HIKARIが主催する「埼玉障害福祉勉強会」を開催しました。テーマは「埼玉県内における地域生活支援拠点等の取り組みと…

式次第は以下の通り
・主催者挨拶/金子代表理事  
・開会のご挨拶及び地域生活支援拠点等に関する行政説明/山本博司参議院議員
・埼玉県内における地域生活支援拠点等の取り組みと課題について」
    ・社会福祉法人 昴 丹羽彩文 理事長
    ・社会福祉法人じりつ 岩上洋一 理事長
・「さいたま市内における地域で生活する課題と行政への提案」/社会福祉法人 埼玉福祉事業協会 髙澤守 事務局長
・参加された3名の国会議員:矢倉克夫氏・宮崎勝氏・高橋次郎氏(参議院議員)からコメントとご挨拶

社会福祉法人じりつ 岩上洋一 理事長の講演として、「埼玉県内における地域生活支援拠点等の取り組みと課題について」として30分ほどお話しを頂きました。
その講演内容を要約いたしました。

【要約】

 本講演は、埼玉県内における障害者支援の現状と課題、特に「地域生活支援拠点」の機能や役割を中心に、社会福祉法人じりつの岩上理事長が自身の経験や事例を交えながら解説・提言を行ったものである。大きく分けると「地域における支援体制の構築」「行政の窓口体制と相談支援専門員の役割」「重度障害のある人の緊急時や将来の暮らしを見据えた体制作り」「精神障害にも対応した支援体制の必要性」「埼玉県独自施策の問題点」の五つの論点が語られた。以下、主なポイントを整理する。


1. 地域生活支援拠点の目的と体制づくりの重要性

 地域生活支援拠点とは、障害者が住み慣れた地域で暮らし続けるため、緊急時を含む様々な支援を「途切れなく受けられる」ようにする拠点である。国は、各市町村や圏域単位での整備を進めるよう方針を示している。
 ただし、地域生活支援拠点が単に「相談窓口」として機能するだけでは不十分である。真に必要なのは、「支援体制の構築」と「協議会の運営」を担う司令塔的役割である。

  • 具体的には、
    1. 市町村の主管課(福祉課など)がまずしっかりと相談を受け止める
    2. 相談支援専門員と連携して必要な支援を組み立てる
    3. 協議会で地域の課題や制度整備を検討する
    4. それを市町村が予算化・行政施策として形にする
      というプロセスが大切である。


       基幹相談支援センターは、市町村の委託を受けた相談対応に追われ、地域体制の整備や協議会の運営が十分に機能していない事例が全国的に散見される。そのためにも、拠点として「相談支援だけでなく体制整備や施設との連携を強化すること」が求められる。

2. 事例紹介:将来の暮らしを見据えた支援

 岩上氏の法人では、複数の市町が連携した「基幹相談支援センター」「地域生活支援拠点」を共同運営し、事前のアセスメントや家族支援に力を入れている。

  • 事例1
    40代の知的障害(1A判定)の方が母親と同居していたが、母の転倒・入院で急に支援が必要になった。
    あらかじめ市町村と相談支援事業所が「訪問調査」を行い、サービス未利用の高齢家族を把握していたため、状況をスムーズに把握できた。
    地域生活支援拠点が提供する「将来の暮らし体験」事業を利用し、入所施設側も協力。結果として、短期利用・グループホーム等への移行準備ができた。
    課題としては、「家族の思い」を事前に丁寧に支援していく重要性が再認識された。
  • 事例2
    脳性麻痺で身体障害1級と軽度知的障害のある55歳の方。両親が高齢(85歳)になり、母が検査入院を控えたところ、通所先のスタッフが異変に気づき拠点へ連絡した。
    本人の意思を尊重し、急場しのぎではなく長期的に「自分らしい生活」をどう支えるかを協議。結果、本人の意向で父の世話を続けることを選びながら、並行してグループホームの体験利用など「将来的な暮らし方」を検討する環境を整備した。
    この介入を機に、通所事業所が他の利用者にも将来の準備を促す機運が高まるなど、「相談支援を契機とした地域や事業所の意識変革」が生じた。

3. 地域移行と施設の役割

 障害のある方にとって施設利用が必要な時期や状況はあるが、それ一辺倒ではなく地域生活への移行を見据えた支援も並行して進める必要がある。とりわけ親が高齢化し、いつ介護が崩れるか分からないケースが増えているため、「平時からの体験」やショートステイの活用が重要になる。
 施設側にも「地域と連携し、利用者の意思決定を再確認していく役割」がある。長年利用している方の中には「本当は地域で暮らしたい」という意向が埋もれている可能性があるため、定期的に意思を聴き取り、必要に応じて選択肢を示す取り組みが期待される。


4. メンタルヘルス支援と重層的支援体制整備の必要性

 国は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」として、メンタルヘルス上の課題を地域で支える仕組みを整備しようとしている。高齢者の包括ケアだけでなく、市町村が国民全体のメンタルヘルスを視野に入れて保健・福祉を連携させることが重要。
 しかし、実際の市町村単位では「保健」の領域と「福祉」の領域が連携せず、「精神科病院」頼みになってしまうケースが多い。そこで厚労省は「重層的支援体制整備事業」を創設したが、県や自治体によっては「新たな総合相談窓口」を立ち上げるだけで終わってしまい、本来の司令塔機能が発揮されていない
 岩上氏は「総合相談窓口は単なる入口ではなく、そこが本当に司令塔として機能しなければ、相談員が疲弊するだけで課題解決には繋がらない」と指摘した。


5. 埼玉県独自施策に対する懸念

 埼玉県では、精神障害者保健福祉手帳を所持している一部対象者の通院医療費を公費負担の枠に組み込む「重度医療の拡大」施策が進められている。その予算は13億円で、市町村にも半額の負担を求めているという。
 一見、精神障害者の負担軽減に見えるが、限られた財源を「個別給付的な助成」に回す優先度の是非が問われる。たとえば児童精神科医の不足や地域の医療体制強化など、より緊急性の高い課題に回す方が効果的ではないかという懸念がある。
 国連障害者権利条約の観点からも「障害種別や軽重で区分する」支援のあり方は時代にそぐわないとの指摘がなされており、より柔軟かつ統合的な制度設計が求められる。


6. 講演を通じた総括

  • 拠点や協議会の本来の目的は、緊急時のみならず「日常的に相談や体験の場を作り、地域全体が本人や家族を支えるネットワークを形成すること」である。
  • 各市町村が主管課を中心に、相談支援専門員や事業所、さらには保健部門・医療機関まで巻き込んで官民協働の仕組みを作る必要がある。
  • 埼玉県では、現場の声を汲み取る「協議会」や「基幹相談支援センター」の役割がまだ十分に発揮されていないケースがあり、加えて県独自施策と国の方針が食い違う可能性がある。
  • 岩上氏自身は県職員として行政に10年間勤務した経験があり、「行政だけでも民間だけでも限界がある」ことを痛感して現在の活動に至った。「お互いの役割を理解し、必要な予算や施策を協議できる場を活かす」ことが、地域生活支援拠点の円滑な機能に不可欠であると強調して講演を締めくくっている。

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 以上が岩上理事長の講演内容の要約である。講演では、障害当事者や家族の「突然の危機」だけではなく、日常的・予防的アプローチの重要性、そして各拠点・協議会・行政が連携するための具体的な手法が述べられた。さらに、精神障害者支援と県独自の医療費助成拡大策に対する問題意識も示されている。限られた財源や人材を有効に活用しながら、国際的な潮流も踏まえた形で地域で暮らし続けられる仕組みをどう作っていくか。本講演は、現場の声を国や自治体の方針に反映させる必要性を強く訴える内容であった。