孤立死・高齢化による認知症問題環境問題について懇談:さいたま市
令和7年6月13日、「孤立死やいわゆるゴミ屋敷対策に関する懇談会」が開催されました。場所は、当団体本部。
この懇談会は、深刻化する「孤立死」「セルフネグレクト」「ゴミ屋敷問題」を、齊藤健一さいたま市議会議員や株式会社日本整理、当団体金子代表理事が集まり、幸手市の小泉市議もオンラインで参加。現状の課題を共有し、具体的な対策を考えるために行われました。

1.懇談会の背景と目的
さいたま市を含む埼玉県は高齢化率が全国トップクラスで、特に高齢者や精神疾患、発達障害を抱える単身者が孤立し、周囲の支援を拒否する事例が増えています。さらに行政や福祉団体は人手不足に悩まされており、現状の体制では十分な支援が届いていないという課題があります。
そこで、この懇談会では、現場の実情をよく知る遺品整理や特殊清掃を行う(株)日本整理、障害者支援を行うNPO法人輝HIKARI、そしてさいたま市議会議員が連携し、具体的な解決策を模索しました。
2.参加者紹介
■齊藤健一市議(さいたま市議会議員 公明党):福祉委員会所属で、長年障害福祉支援を取り上げてきた。
■株式会社日本整理 高橋氏、尾上氏 ほか:年間数百件の遺品整理、特殊清掃、ゴミ屋敷片付けを行う現場の専門業者。
日本整理ホームページ
https://www.nipponseiri.com/
■NPO法人輝HIKARI 金子訓隆代表理事:障害者支援の専門分野に従事し、国や県、市との連携支援を行っている。
小泉圭司幸手市議(オンライン参加):幸手市で地域支援の具体的な取り組みを実践。
3.現状の課題
孤立死の実態
孤立死が多発しているのは、行政や福祉サービスの枠外にいる60~70代の単身者です。孤立死は郵便物の滞留や悪臭、近隣住民のクレームで発見されることが多く、発見時には既に家がゴミ屋敷化しています。
4.ゴミ屋敷の原因
精神疾患や発達障害による収集癖、認知症、家族関係の希薄化、または健常と思われる人でもセルフネグレクト(自己放任)が原因です。家屋崩壊レベルのゴミ屋敷は特殊清掃が必要で、非常にコストが高く、支払い能力の低い人が多いのも問題です。
5.行政対応の問題点
一般廃棄物収集運搬許可:さいたま市ではこの許可を得るのが困難であり、日本整理のような業者は違法なリスクを抱えつつ、高コストな方法で処理せざるを得ません。
支援拒否の壁:行政や福祉関係者が支援を提供しようとしても、当事者が拒否する場合が多く、対応が難しい状況です。
費用負担問題:誰が費用を負担するのかが明確でなく、結果的に不動産管理会社や民間業者がその負担を負っています。
6.法制度と仕組みの提案
年後見制度の活用促進:認知症や障害を抱える人々が事前に後見制度を利用することで、円滑な支援が可能に。
7.具体的な政策提案
一般廃棄物収集運搬の家庭系枠の拡大:遺品整理や特殊清掃専門のカテゴリ新設を検討。アウトリーチ支援の委託化:行政から専門業者への段階的委託を進め、成果報酬型の導入。
IoTを活用した見守りシステムの導入:玄関やトイレの無動作を検知し、早期に介入できる仕組みを普及。
市民後見センターを通じた成年後見制度の啓発強化。
小銭処理問題の福祉的活用:障害者の就労支援事業所で小銭選別を行い、地域経済への貢献を図る。
8.日本整理の要望
日本整理は、業務の合法性確保のため、許認可取得の促進、行政窓口の一本化、費用の支払い保証、事例データベースの共有を求めています。
9.NPO法人輝HIKARIの提案
官民連携の勉強会を開催し、障害、精神疾患、高齢者支援を統合したアウトリーチチーム(地域レスキュー隊)を作る構想を示しています。
10.幸手市の取り組み紹介
幸手市では低コストの見守りセンサーを導入し、地域でポイント還元を行うなど独自の取り組みを進めています。
11.実際のケースからの教訓
白岡市のケース:民間業者が時間をかけて信頼関係を構築し、行政介入を成功させました。
岩槻区のケース(猫300匹の死骸):行政の介入により、地域被害を防止。
12.今後の計画
市議会での提案:一般廃棄物収集運搬許可拡大やアウトリーチ委託モデルの推進。
孤立死対策条例の作成:見守りセンサー導入や緊急介入基準を条例化したい。
モデル事業の申請:さいたま市北部をモデル地区に指定し、具体的な支援活動を推進したい。
13.まとめ
孤立死をゼロにするためには、福祉、環境、住宅、財産管理といった分野が連携した総合的な対策が必要です。現場の業者とNPO、そして行政や議会が一体となって制度化を進めることが、尊厳ある暮らしを守る鍵となります。さいたま市が全国、さらには世界の模範となるよう、今後も官民一体で積極的な取り組みを進める予定です。
主な議論内容
孤立死対策の取り組みと地域での支援強化
社会的孤立が深刻化し、孤独死やセルフネグレクト(自己放任)の問題が全国的に注目されています。特に、高齢者や障害者を中心に支援が必要な状況でも、支援を拒否するケースが多く、孤立のリスクはますます高まっています。埼玉県でもその問題が顕著であり、これらの課題を解決するためのさまざまなアプローチが議論されました。
孤立死と支援の現状
懇談会では、特に「孤立死」や「ゴミ屋敷」といった問題に焦点が当てられました。齊藤市議は、60歳のセルフネグレクト状態にある個人を例に挙げ、支援を求める言動を取る一方で、それを拒否するケースが多いことを指摘しました。高橋氏は、孤独死の現場でしばしば目にするのは、亡くなる直前まで元気に見えていた人々であり、周囲が異変に気付くのが遅いことが多いと述べました。ゴミ屋敷化が進んだ住環境の劣化は、これらの問題をさらに深刻化させています。
支援提供の課題と解決策
社会福祉協議会(社協)や地域包括支援センターが人手不足により孤立した個人への継続的な支援を提供できていない現状が報告されました。また、本人が「困っていない」と感じて支援を拒否するケースも多く、行政による介入が非常に難しいことが課題です。高橋氏は、ゴミ屋敷清掃の際に、第三者が「ゴミ」と見なすものが本人にとっては「宝物」であり、その取り扱いに法的リスクが伴うことを強調しました。
このような状況に対処するため、幾つかの解決策が提案されました。まず、コミュニティソーシャルワーカー(CSW)の配置が計画されており、これにより支援を求めない人々を特定し、サービスを提供するための役割が担われます。さらに、在宅監視システムの導入が提案され、トイレや玄関の動きなどをセンサーで検知することにより、孤立死の予防が期待されています。
成年後見制度の推進と資金モデルの革新
金子氏は、認知症リスクのある高齢者に対して、事前に成年後見人を設定することが重要であり、これにより清掃や医療介入が円滑に進むと指摘しました。また、特定非営利活動法人輝HIKARIとしては、ゴミ屋敷清掃で発見される小銭を活用し、知的障害者による仕分け作業を就労機会とする新しい資金モデルの提案がなされました。このようなモデルは、社会的貢献と雇用機会の創出を同時に実現する可能性を秘めています。
さいたま市のリーダーシップ
さいたま市は、これらの問題に取り組むために重要な役割を果たすことが期待されています。齊藤市議は、さいたま市の環境局に対して、一般廃棄物収集運搬許可の拡大を提案し、日本整理のサービスを市政に統合する方法を模索しています。また、成年後見制度の普及を促進するため、認知症や孤立リスクに対する事前対応を進めることが合意されました。
これらの取り組みは、孤立死やゴミ屋敷問題を解決するための大きな一歩となるでしょう。さいたま市は、これらの問題に積極的に取り組むリーダーシップを発揮し、今後の政策変更を促進することが期待されています。
今後の展望と課題
懇談会での議論を踏まえ、今後はこれらの施策を実行に移すための準備が進められます。市民や関連団体との協力が不可欠であり、コミュニティソーシャルワーカーの配置や、技術的監視システムの導入が実現すれば、より多くの孤立した人々に対して支援が届くことが期待されます。また、成年後見制度の普及を通じて、認知症や孤立リスクに対する事前対応が進められることで、より安心な地域社会が実現することを目指しています。
これらの問題に取り組むことで、孤立死を防ぐための新しい社会的枠組みが構築されることを期待しています。
