日本発達系作業療法学会 第13回学術大会に参加 Vol.1
3月15日と16日、東京保健医療専門職大学講堂で、日本発達系作業療法学会 第13回学術大会が開催されました。
日本発達系作業療法学会 第13回学術大会
https://h-ot13.secand.net/index.html

この大会には、当団体の金子訓隆代表理事が参加。15日は所用で参加出来ませんでしたので16日のみ参加となりました。
講堂には約400名の、主に児童の発達について学ぶ作業療法士やOTを目指す学生など多数参加されていました。

まずは、「こどもの笑顔とつながりを作る仕組みと発達系作業療法とのつながり」というテーマで、「こども政策全体の中での障害児施策について」と題して、国の立場からお話しをされた、こども家庭庁支援局 障害児支援課・鈴木久也課長補佐のお話を要約します。

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本講演では、こども家庭庁の最新の政策動向や、その背景にある「子ども基本法」「子ども大綱(子ども政策の5カ年計画)」などの制定・施行により、子どもを取り巻く環境がどのように変化し、特に障害のある子どもたちへの支援がどのように強化されていくのかが示された。なかでも、「子ども真ん中」や「子どもの声を聴く」姿勢の重要性が強調され、支援の実践においては子ども一人ひとりに寄り添う視点が欠かせないことが繰り返し語られた。
【1.子ども基本法と子ども大綱の意義】
近年、子どもに関する法律として「子ども基本法」が施行されたことで、「すべての子どもが大切にされる」ことが法的な理念となった。従来、子ども政策は悲惨な事件や事故(虐待や保育園の事故など)を契機に動きがちだったが、子ども基本法と「子ども大綱」(5カ年計画)の存在により、子どもの施策を継続的かつ計画的に推進できるようになった。特に、障害のある子どもも含めた「参加する権利」を大切にし、地域や学校現場が“恐れず”に受け入れの工夫をすることで実際にプール利用が実現したケースなどが紹介され、「法律が具体的な場面で意識され始めた」象徴的な事例として語られた。
【2.こども家庭庁の設立と子ども政策の全体像】
2023年4月にこども家庭庁が発足した意義は大きく、子どもに関する施策を一元的に推進する役割を担うようになった。そこでは主に次の3点が重要とされる。
1.乳幼児期(0~2歳)の保育や虐待予防を含む包括的サポート
2.学童期から青年期に至るまでの「居場所づくり」
3.何らかの障害や医療的ケアを必要とする子どもへの専門的支援の強化
子ども大綱に基づき、こども家庭庁は今後5年間の施策を継続的に進め、その後5年ごとに見直しを行っていく。この枠組みによって、社会全体が子どもの育ちを支える基盤を安定的に整えやすくなる。また、すべての国民が「子育て当事者」として関わるべきであり、子どもを「真ん中」に据えた社会づくりを進めることが提唱されている。
【3.障害のある子どもへの支援強化と改正児童福祉法】
障害のある子どもに関しては、児童福祉法の改正や障害者支援部会の議論を通じて、地域で安心して暮らせる体制づくりが明記された。具体的には以下のポイントがある。
1.地域における相談支援体制の強化
令和4年の改正児童福祉法では、妊娠期から途切れずに見守るための枠組みが盛り込まれた。特に各自治体における「児童発達支援センター」や「障害児相談支援事業所」を中心に、専門家を交えた連携チームを構築することが求められる。以前は支援拠点が増えても「点」にとどまりやすかったが、改正ではより「線・面」としてつながることを重視している。
2.専門性の評価と多職種連携
障害児通所支援や放課後等デイサービスにおける「専門的支援加算」などが設けられ、作業療法士(OT)をはじめとする専門職の配置が進められている。ただし「子どもを総合的に見る」ことが基本であり、OTだけでなく、他の専門職や保育士、教育関係者とも連携して、子どもの全体像を踏まえた個別支援計画を作ることが強調されている。
3.令和6年・令和9年報酬改定に向けた検討
現在、障害児通所等の報酬改定(令和6年、さらに令和9年へ向けた検討)では、人材育成の充実が大きなテーマとなっている。国は「初級・中級・上級」とキャリアレベルに応じた研修制度の導入を検討しており、将来的にすべての障害児支援従事者が段階的研修を受けられる体制が整備される見通しである。
【4.子どもの声を聴く・意思形成支援の重要性】
こども家庭庁が示す大きな変化として、障害のある子どもの声や意思がこれまで十分に反映されてこなかった点を問題視し、「意思形成支援」の考え方を政策に組み込んだ点が挙げられる。たとえば、
•障害のある子が選択肢を与えられないまま、大人の都合で何かを決められてしまう。
•意見を聞かれたり、選択したりする経験が乏しく、自身の意思を示す機会そのものが少ない。
こうした問題意識があり、日々の生活動作(衣服の着脱や遊びの選択など)においても、まず子ども本人に「いまから○○するよ」といった声かけを行い、可能な限り自発的な選択や意見表明を促すことが大切だとされる。これは、今後の自立やQOL向上にとって重要なステップでもある。
【5.居場所づくりと学童期・青年期への配慮】
子ども大綱には、学童期・青年期の「居場所」の確保も明記され、孤独・孤立を防ぐ取り組みが重視されている。公園や学童クラブ、地域の遊び場、NPOが運営するフリースクールなど、形態は多様だが、「大人が用意した場所=居場所」ではなく、「子ども自身が『ここにいていい』と思えるか」が最も重要な視点だと強調される。そのため、時間帯の設定や大人との関係性などを総合的に工夫し、子どものニーズに合った居場所づくりが求められる。
【6.まとめ:子ども真ん中の社会を目指して】
講演の最後では、子ども家庭庁や国の政策が「子ども真ん中」を掲げても、それだけで自動的に社会が変わるわけではないと指摘される。むしろ、一人ひとりの国民が「子どもが安心して暮らせるために、自分は何をすべきか」という意識を持ち、日常の中で子どもの声や選択を大切にし続けることこそが、長期的に子どもの権利を守り、地域や支援の質を高める鍵になるというメッセージが示された。特に障害のある子どもたちに対しては、医療・福祉・教育が連携し、専門性を活かしながらも「子どもの全体像」に寄り添い、その子の意思を最大限尊重する支援体制が必要である。
以上のように、本講演では「子どもの声や権利の尊重」「専門的支援の評価と多職種連携」「居場所づくりの重要性」を軸として、こども家庭庁と関連法令の背景から実際の現場で起こった事例まで一貫して述べられた。今後は、令和6年、令和9年の報酬改定や人材育成制度の整備なども含め、障害のある子どもをめぐる環境が大きく変わり始めると見込まれる。そこでは、作業療法士をはじめとする専門職が、より包括的なチームアプローチの中核として期待されていることが再三強調された。また、法制度や指針を根拠にするだけでなく、支援者や地域住民一人ひとりが「子ども真ん中」を体現する意識を持ち、日々の支援や環境づくりの場面で意思形成支援を丁寧に行うことが、子どもたちの未来を大きく支えることになる、という展望が示されています。