生成AIで障害者雇用の未来を拓く:パパゲーノWork & Recovery視察と意見交換

1月13日、NPO法人輝HIKARI代表理事の金子訓隆は、杉並区にある「株式会社パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型事業所)」を訪問いたしました。

今回の訪問は、公明党の山本博司前参議院議員、杉並区議会の渡辺ふじお議員(区ICT活用推進検討委員会委員長)、中村やすひろ議員(区幹事長)、そして元厚労省で障害者雇用対策の専門家である小野寺徳子さんと共に行いました。昨年に続く二度目の訪問となります。

AIが拓く障害者就労の新たな地平 – 株式会社パパゲーノ訪問記:東京都杉並区

11月13日、金子訓隆代表理事は、山本博司前参議院議員、そして元厚労省障害者雇用対策課長も歴任された小野寺徳子さんと共に、杉並区下高井戸にある「株式会社パパゲーノ …

が、今回はより具体的な「行政課題の解決」と「AI活用の実践」に踏み込んだ意見交換となりました。

現場から浮き彫りになった2つの「行政の壁」

パパゲーノの田中康雅CEOとの対話の中で、障害のある方が自分らしく働くことを阻んでいる実務上の課題が改めて浮き彫りになりました。

  1. 交通費支給の不平等:
    株式会社が運営する事業所に通う当事者に対し、交通費が支給されないという不合理な格差が存在しています。生活保護制度と障害福祉制度の狭間で生じているこの課題に対し、事実関係を整理し、早急な是正を求めていく必要があります。
  2. 電子署名の制限:
    国は電磁的方法による契約を認めているにもかかわらず、自治体レベルでは「障害者に署名能力がない」といった偏見に基づいた運用がなされ、一律に禁止されている現状があります。これは「障害者権利条約」の理念に反するものであり、ICT活用を推進する立場からも見直しを強く働きかけてまいります。

AIは「脳の機能を補完する」希望のツール

IT企業(株式会社マイクロブレイン)を経営する立場としても、田中CEOが取り組まれている「AIによる脳機能障害の補完」には非常に大きな可能性を感じています。

視察では、精神障害や発達障害、認知症などにより生じる「コミュニケーションや業務遂行の難しさ」を、生成AIがどのように解決しているかについて伺いました。

  • 相手の意図を汲み取ることが苦手な方が、AIに相談して適切な伝え方を一緒に考える。
  • 難解な業務マニュアルを、AIがその人に合わせた平易な表現(ひらがな化など)に変換する。
  • 対人不安が強い方が、気兼ねなく質問できるパートナーとしてAIを活用する。

このように、環境を整えることで「自力でできること」が増える社会。これこそが、私たちが目指す「共生社会」のITによる実装であると確信しました。

杉並区における障害者福祉の課題と改善に向けた懇談会:要約報告書

主要議題(1):通所交通費支給における「法人格」による不平等

今回の懇談で最も深刻な実態として議論されたのが、「運営主体の法人格によって、通所する障害当事者への交通費支給の可否が分かれる」という杉並区独自のルールの問題です。

現状の課題と矛盾

杉並区では、社会福祉法人が運営する事業所に通う利用者には交通費が助成される一方で、株式会社(民間企業)が運営する事業所に通う利用者には交通費が支給されないという運用がなされています。
パパゲーノの田中代表からは、以下の実態が報告されました。

  • 当事者の不利益: 利用者本人が交通費を捻出できない場合、適切な福祉サービスにアクセスすること自体が困難になる。これは事業所への支援ではなく「本人への給付」であるべきだが、現状は法人格で線引きされている。
  • 行政の誤解: 区の担当者は「株式会社は利益を分配するため、公金(交通費)を出すのは適切ではない」という趣旨の説明をしているが、交通費は事業所の利益ではなく利用者の実費負担を補填するものであり、この認識は事実誤認に近い。
  • 厚労省ガイドラインとの乖離: 小野寺氏からは、2023年11月の厚労省ガイドラインにおいて、特定の事業所への「囲い込み」や「不適切な誘因」が禁じられている点が指摘された。杉並区のルールは、結果として「交通費が出る社会福祉法人」へ利用者を誘導することになり、当事者の選択権を阻害している可能性がある。

他自治体との比較と「運用」の改善案

近隣の中野区、板橋区、練馬区や大阪市などの事例を調査した結果、生活保護の「自立支援経費」の枠組みや、自治体独自の補助規定を活用し、法人格に関わらず実費を控除・支給しているケースがあることが判明しました。
出席した議員からは、「生活保護制度の運用(収入認定からの控除)において、部署間の連携不足により株式会社の利用者が取り残されているのではないか」という仮説が立てられ、早急な事実確認と運用の是正を求める方針が確認されました。

主要議題(2):DX(デジタルトランスフォーメーション)の阻害と障害者差別

次に、行政手続きのデジタル化の遅れと、それに伴う障害当事者への偏見について議論が交わされました。

電子署名一律禁止の問題

国の方針として電磁的方法による契約や保存が認められているにもかかわらず、杉並区では個別支援計画や実績記録表への「電子署名(電子的なサイン)」が認められていません。

  • 「能力不足」という偏見: 区の回答として「障害者には電子署名で本人証明をする能力が不十分である可能性がある」という趣旨の説明があったことが報告されました。これに対し、出席者からは「障害者差別解消法や障害者権利条約の趣旨に反する、極めて不適切な対応である」と強い懸念が示されました。
  • 合理的配慮の欠如: 電子署名が難しい方に対しては「紙」の選択肢を残すべきですが、デジタルツールを使いこなす当事者に対してまで一律に禁止することは、社会参画の機会を奪う行為に他なりません。

行政のデジタル化への提言

ICT活用推進検討委員長を務める渡辺議員からは、杉並区のDXが他自治体と比較しても大幅に遅れている現状への危機感が語られました。

  • ハイブリッドな対応の必要性: デジタルとアナログの両方を選択できる「ハイブリッド型」の運用こそが、誰一人取り残さない福祉の形である。
  • 効率化のメリット: 電子化は事業者側の事務負担軽減だけでなく、監査の効率化やデータの利活用にも繋がる。行政側の「紙ベースの慣習」を守るために当事者に不自由を強いる構造を打破すべきであるとの意見で一致しました。

今後の展望とアクションプラン

懇談の締めくくりとして、以下の具体的な次のステップが提示されました。

  1. 実態調査と事実確認: 杉並区の「障害者施策課」と「福祉事務所(生活保護担当)」のそれぞれに対し、交通費支給(または控除)の根拠規定と運用実態をヒアリングし、なぜ株式会社の利用者が対象外となっているのか、その論理的矛盾を突く。
  2. 議会・行政への働きかけ: 渡辺・中村両議員を中心に、今回の「交通費の不平等」と「電子署名禁止による権利侵害」を区議会での議論や行政交渉の議題として引き上げ、改善を迫る。
  3. 先進事例の共有: 他区(中野・板橋等)で行われている柔軟な運用事例を資料化し、杉並区でも実現可能であることを具体的に提示する。

結びに

パパゲーノのような「表現活動」や「IT」を軸にした新しい形態の就労支援事業所が、既存の行政ルールの壁によってその活動を制約されている現状は、杉並区の福祉全体にとっても大きな損失です。
今回の懇談は、現場の切実な声と、国・地方自治体の制度に精通した専門家・議員が結びついたことで、具体的な改善の道筋が見えた貴重な機会となりました。「制度の谷間」で不利益を被る障害当事者がいなくなるよう、今後も継続的な連携を強化していく決意を共有し、閉会となりました。