第12回日本小児診療多職種学会に参加(2):山形市

7日に引き続き、2日目も日本小児診療多職種学会に参加しました。
一般市民公開講座として、東京都議会議員の龍円あいり都議による講演「共に創るインクルーシブな社会」を要約します。
龍円あいり都議は、父の留学先であったスウェーデンウプサラで出生。法政大学法学部卒業。大学卒業後の1999年テレビ朝日にアナウンサーとして入社。その後は、2017年に都民ファーストの会がより都議会議員に立候補として当選。

お子様がダウン症をもって生まれ、スウェーデンでの生活と療育、そして日本での生活と療育を経験。
その経験に基づき、障害のある方の家庭や子育てについて話されました。

2026年2月8日、山形市で開催された「第12回日本小児診療多職種学会」における、東京都議会議員・龍円あいり氏の講演「共に創るインクルーシブな社会」の内容を要約します。

元アナウンサーであり、ダウン症のある長男を育てる母親(当事者)としての視点と、政策立案者としての視点を掛け合わせた龍円氏の経験から、日米欧の比較を通じたインクルーシブな社会のあり方が語られました。


1. 米国で出会ったインクルージョンの衝撃

龍円氏は2011年、留学先の米国カリフォルニア州で長男を出産しました。そこで体験したのは、日本とは根本的に異なる障害児支援の構造でした。

法律の力:IDEA(個別障害者教育法)

米国には1970年代に制定されたIDEAという法律があります。これは0歳から成人(21歳頃)までを対象に、障害のある子供が「無償で適切な教育」を「最も制限の少ない環境」で受ける権利を保障するものです。この法律がバックボーンにあるため、以下の支援が「権利」として機能していました。

個別支援計画(IFSP/IEP)と多職種連携

生後間もない時期から、行政(リージョナルセンター)、学校区、医療、セラピスト、そして保護者が一つのチームとなり、「個別家族支援計画(IFSP)」を作成します。

  • 学校区の関与: ミルクを飲んでいる0歳の段階から、将来学校に入った際にどのような学びを提供するか、学校区の担当者がチームに加わります。
  • リアルタイムの情報共有: 医療機関の受診記録や発達検査の結果が常に更新・共有され、保護者が各所で同じ説明を繰り返す負担がありません。
  • 具体的な目標設定: 「哺乳瓶を自分で持つ」「手話と音を組み合わせて250語程度操る」など、極めて具体的かつ数値化された目標が立てられ、多職種で共有されます。

保護者のエンパワーメント

特筆すべきは、プログラムの中に「保護者のための時間」が組み込まれている点です。カウンセラーを交え、親としての心理的受容や、将来の学校教育において「子供の代弁者(アドボケイト)」となるための教育が行われます。これにより、親は「サービスを受ける側」ではなく「チームの対等なパートナー」として成長していく仕組みが整っていました。


2. スウェーデンと日本の比較:幸福度と多様性

スウェーデン生まれである龍円氏は、北欧と日本の社会構造の違いについても言及しました。

「普通」という概念の壁

日本は「和を以て貴しとなす」文化があり、社会政策も「普通の市民」を前提に作られがちです。そのため、インクルージョンを語る際も「普通という大きな海に、違う人をどう入れるか」という議論になりがちです。

対して、スウェーデンや米国では「全員が違うことが前提」です。

  • ジェンダー・LGBTQ・障害: スウェーデンはジェンダーギャップ指数が低く、性的マイノリティや障害者への法整備も進んでいます。
  • 幸福度との相関: 統計的に、違いが認められ、法的に守られている国ほど幸福度が高い傾向にあります。龍円氏は「1人1人が違いを持ったまま幸せに生きられる社会=インクルーシブな社会」こそが、結果として全員の幸福度を高めると確信し、2017年に都議選へ出馬しました。

3. 日本における「インクルーシブ政策」の実践

帰国後の2015年当時、龍円氏は日本の福祉に「弱者に優しい国だと思っていたが、実は支援が縦割りで、親が情報を求めて彷徨っている」という違和感を抱きました。この課題を解決するため、彼女は「プロデューサー」的な立場で政策を推進してきました。

インクルーシブ公園の全国展開

日本で初めて、障害の有無に関わらず遊べる「インクルーシブ公園(みんなのひろば)」の実現をリードしました。

  • 可視化: 行政(建設局)に対し、「公園に来られない子供たちがいる」という現状を可視化。
  • 多職種・企業連携: 当事者団体、遊具メーカー、メディアを巻き込み、日本の安全基準に適合した安価な国産遊具の開発を促しました。
  • 補助金とガイドライン: 一箇所の成功で終わらせず、東京都として補助金制度とガイドラインを作成したことで、現在では全国200箇所以上に広がっています。

インクルーシブ教育の推進

日本の教育は、通常学級と特別支援学級・学校が分かれる「分離教育」の傾向が強まっており、特別支援学校の児童生徒数は過去最多を更新しています。龍円氏は、この「多様性の欠如」が不登校やいじめの増加の一因ではないかと指摘します。

  • 東京都の変革: 8年前、都の教育計画に「インクルーシブ」という言葉は皆無でしたが、現在は計画の柱の一つとなっています。
  • 具体的な施策: 特別支援学校と都立高校の「同じ校舎内」での設置や、高校での外部専門職連携など、少しずつ「同じ場所で共に学ぶ」環境を整備しています。

4. 結論:共に創るためのマインドセット

龍円氏は、インクルーシブな政策を進める上で最も重要なのは「関わる全員が当事者であるという感覚」を持つことだと述べています。

  • 行政を仲間にする: 行政職員の「心に火をつける」ため、当事者の声を直接届ける場を作る。
  • ビジョンを描く: 「遊具を作る」ことが目的ではなく、その先の「幸福度の高い地域社会」を描く。
  • 他職種連携: 議員、医療、教育、企業がそれぞれの専門性を活かし、プロデューサー的な視点で繋がっていく。

「人はみんな違う」という当たり前の前提を社会のOSに組み込むこと。それが、障害のある子も、そうでない子も、そして大人たちも、誰もが輝ける社会への道筋であると締めくくられました。