視覚障がい者の「自由な一歩」を支える技術――LiNKX小西氏、山本博司氏との意見交換
2月17日午前、港区に本社を置くLiNKX(リンクス)株式会社を訪問し、共同創業者である小西祐一取締役、そして障がい者福祉に深く尽力されている山本博司前参議院議員と、視覚障がい者支援の未来について非常に熱のこもった意見交換を行いました。

■ 視覚障がい者の命を守る「shikAI(シカイ)」の可能性
小西氏が開発の主軸を担うナビゲーションシステム「shikAI」。これは、点字ブロックに貼られたQRコードをスマホで読み取ることで、現在地から目的地(改札やホームなど)までを正確な音声ガイダンスで導く画期的なシステムです。
駅ホームからの転落事故が後を絶たない中、全国31万人の視覚障がい者の方々にとって、この技術はまさに「命綱」となり得るものです。
すでに東京メトロ13駅やJR西日本・大阪駅、さらには豊島区の公共施設やつくばセンターなどで導入が進んでおり、国土交通省も推奨する事業となっています。
2017年から足掛け数年にわたり、地下鉄での実証実験などを視察してまいりました。一歩ずつ、しかし確実に社会に実装されている手応えを感じています。
■ 浮かび上がった新たな課題と、広がる支援の輪
意見交換では、技術的な進歩だけでなく、今後の具体的な課題についても深く議論しました。
- 無人駅・無人改札への対応: 駅員の不在が増える中で、いかにテクノロジーで安全を担保するか。
- バリアフリー法の更なる改善: 「到達率」の導入など、指標そのものの見直しに向けた働きかけ。
また、八重洲や梅田といった大規模地下街において、視覚障がい者の方が誰の手も借りず「一人で自由に歩き、楽しめる」環境をどう整備していくか。そのビジョンを共有できたことは、大きな収穫でした。
「shikAI(シカイ)」について
「shikAI(シカイ)」は、視覚障がいを持つ方が駅構内などの複雑な場所を、「自立して、迷わず、安全に」移動できるように開発された音声ナビゲーションシステムです。
1. 「shikAI」の仕組み
従来のGPSでは難しかった「屋内での正確な位置把握」を、点字ブロックとQRコードの組み合わせで解決しているのが最大の特徴です。
- QRコードの設置: 駅構内の点字ブロック(特に分岐点や階段の手前)に、耐久性の高い専用のQRコードが貼られています。
- スマホカメラでスキャン: ユーザーはiPhoneを床に向けて歩くだけで、アプリが自動的にQRコードを検知・スキャンします。
- 正確な位置補正: QRコードごとに「緯度・経度・向き」の情報が紐づいており、スキャンするたびに現在地が正確にアップデートされます。
2. 主な機能と使いやすさ
視覚障がい者の方がストレスなく利用できるよう、iPhoneの標準読み上げ機能「VoiceOver」に最適化されています。
- 直感的な音声ガイド: 「前方6メートル」「右方向です」といった指示に加え、階段の段数や、目的地が左右どちら側にあるかまで詳細に案内します。
- ミスルートの修正: 万が一、ルートを外れたり逆方向に歩き出したりしても、「後退3メートル」のように即座に修正指示が流れます。
- スマホを振ってリピート: 聞き逃したときはスマホをシェイクするだけで、直前の案内を再度聞くことができます。
3. 導入状況と広がり(2026年現在)
当初は東京メトロの主要駅から始まりましたが、現在は全国の交通機関や施設に広がっています。
| エリア | 主な導入箇所 |
| 東京都内 | 東京メトロ(大手町、明治神宮前、銀座など多数の駅)、日本橋エリアの商業施設など |
| 関西エリア | 大阪駅(うめきたエリアを含む構内全域への拡大)、JR西日本の一部駅 |
| その他 | つくばセンター(バスターミナルと駅の連携)など、自治体主導の導入も進行中 |
4. 利用する際の注意点
- 対応機種: 現在、基本的にはiPhone専用アプリとして提供されています(アクセシビリティ機能の安定性のため)。
- 事前登録: 多くの場所で、安全に利用するための講習受講や事前ユーザー登録が推奨されています。
- 歩行の補助: あくまで「経路案内」のサポートツールです。周囲の安全確認や段差の把握には、引き続き白杖や盲導犬との併用が前提となります。
視覚障がい者にとっての「1メートル」の重み
晴眼者にとっては1メートルはわずかな誤差ですが、視覚障がい者にとっては「階段から落ちるか、無事に降りられるか」の生死を分ける距離です。shikAIがQRコードというアナログな手法にこだわっているのは、ビーコン(電波)ではどうしても生じてしまう数メートルの誤差をなくし、「cm(センチメートル)単位の正確さ」を追求した結果です。
開発者:小西祐一氏について
小西氏のキャリアを俯瞰すると、単なる「ITエンジニア」や「アイデアマン」の枠に収まらず、「高度な金融リテラシー」「卓越した事業推進力」「社会課題への高い意識」という3つの軸が見えてきます。
1. 「金融×事業構築」の高度なハイブリッド能力
小西氏の経歴で特筆すべきは、早稲田大学大学院ファイナンス研究科を修了している点です。多くのIT起業家が技術面やマーケティング面からスタートするのに対し、小西氏は「企業価値の最大化」や「資本政策」に関する高度な知見を持っています。
- 資本市場を見据えた経営: これまでに創業した企業をIPO(新規株式公開)や上場企業への売却に導いていること、そして2020年のプログレス・テクノロジーズと国内最大手VCであるJAFCO(ジャフコ)との大型資本提携を実行したことは、彼が事業を創るだけでなく、それを「資本市場でどう評価させるか」「いかに最適なパートナーと組んでスケールさせるか」というファイナンスの視点を持ったプロ経営者であることを示しています。
2. インフラ企業を巻き込む「事業推進力」(shikAIの凄み)
視覚障がい者向けナビゲーションシステム「shikAI」の成功は、単に「良いアプリを作った」というレベルの話ではありません。ここに小西氏の真骨頂があります。
- 「クローズドなインフラ」を開拓する力: 地下鉄や鉄道の駅構内というものは、安全性が最優先される極めて保守的な公共インフラです。通常、スタートアップがこのような場所に新しいシステム(点字ブロックにQRコードを貼る等)を導入するのは至難の業です。
- オープンイノベーションの活用: 小西氏は東京メトロのオープンイノベーションプログラムを活用し、単なる提案で終わらせず、実証実験を経て「本導入」まで漕ぎ着けました。さらにJR西日本(うめきたエリア)などへも展開を広げています。これは、大企業の意思決定プロセスを理解し、安全性やコスト要件をクリアし、ステークホルダー(鉄道会社、自治体、視覚障がい者団体など)をまとめ上げる**泥臭く強靭な事業開発力(BizDev力)**があることを証明しています。
3. テクノロジーを用いた「真の社会課題解決(ソーシャルグッド)」の実践
「shikAI」の開発に見られるように、小西氏のビジネスは「儲かるITビジネス」だけにとどまらず、社会的なペイン(痛みや不便さ)を解消することに向かっています。
- テクノロジー(スマートフォンの画像認識や音声案内)と、既存のアナログなインフラ(点字ブロック)を融合させるアプローチは、非常に現実的かつ実用的です。最新のAI技術をただひけらかすのではなく、「本当に困っている人にどう届けるか」というユーザーファーストの設計思想が根底にあると考察できます。
4. 連続起業家(シリアルアントレプレナー)としての「循環」
現在、小西氏はLiNKX株式会社において、エンジニアのコミュニティ形成などに関わっています。
- 自らがゼロから事業を立ち上げ、上場やバイアウト(売却)まで経験したノウハウを、次の世代のエンジニアやスタートアップ環境に還元しようとしているフェーズにあると言えます。日本のスタートアップ・エコシステムにおいて、彼のように「一巡」した経験を持つ人物が後進の育成や新たなテクノロジーの社会実装に関わることは、非常に価値が高いです。






