鎌倉市の先進的な挑戦に学ぶ:障害者2000人雇用・就労困難者支援について、松尾崇鎌倉市長と懇談

25日午後、山本博司前参議院議員、元厚労省障害者雇用対策課長の小野寺徳子氏(現VALT JAPAN顧問)と共に、鎌倉市役所を訪問いたしました。松尾崇市長をはじめとする市当局の皆様、そして事業を共に推進するVALT JAPANの小野社長らと、非常に密度の濃い意見交換を行うことができました。

私たちが今回、特に注目したのは、鎌倉市が掲げる「障害者二千人雇用」と、全国でも先駆的な「就労困難者特化型BPO事業」の実践です。
なお、当団体の金子訓隆代表理事は、岡山県総社市が進める「障がい者1500人雇用委員会」の委員でもあり、総社市と協定を結ぶ鎌倉市との交流も含めて障がい者雇用について意見交換をしました。

鎌倉市が示す「働く」ことへの伴走支援

視察を通じて、鎌倉市の取り組みには「数字」の裏側に、一人ひとりの人生に寄り添う「仕組み」があることを強く実感しました。

  • 驚異的な就労実績:市内には7,603人の手帳保持者がいらっしゃいますが、そのうち2,329人が就労(一般就労1,301名、福祉的就労1,028人)を実現しています。
  • 「ワークステーションかまくら」の熱気:市役所内の現場も拝見しました。5名の障害者スタッフが、データ入力や集配など、年間1,500件を超える実務を担っています。単なる作業ではなく、市役所の重要な機能の一部として「戦力」になっている姿が印象的でした。
  • ひきこもり支援の最前線:「デジタル就労支援センターKAMAKURA」では、手帳の有無にかかわらず、ひきこもり状態にある方々が在宅や通所でBPO事業(業務受託)に携わっています。ここから一般就労へ繋がったケースもあり、新たな就労モデルとしての可能性を感じました。

支援の「空白」を埋めるために

意見交換の場では、私たちが日々向き合っている課題についても深く議論いたしました。

  • 「親亡き後」の地域生活支援の構築
  • 高次脳機能障害者への専門的支援
  • 医療的ケア児・重症心身障害者の社会参加と就労

特に、重度の障害や医療的ケアが必要な方々にとって、社会と繋がり「働く」選択肢を持つことは、本人だけでなく家族にとっても大きな希望となります。鎌倉市のような、行政が主導して多様な就労の形(在宅・デジタル・農業等)を創出する姿勢は、全国の自治体が参考にすべきモデルです。


今回の視察では、山本前参議院議員が進めておられる超党派での基本法整備の動き、そして行政・民間企業(VALT JAPAN)・専門家・NPOが手を取り合うことの重要性を再認識しました。

輝HIKARIとしても、今回得た知見を活かし、障害のある方々やそのご家族が、住み慣れた地域で尊厳を持って働き、暮らしていける社会の実現に向けて、さらに歩みを進めてまいります。

松尾市長をはじめ、温かく迎えてくださった鎌倉市役所の皆様、貴重な機会をありがとうございました。

以下は、松尾崇鎌倉市長との懇談内容について要約しました

なお、本要約についての文責は、特定非営利活動法人輝HIKARIにあります。間違いもあるかと思いますが、本活動報告に関する内容について鎌倉市へお問い合わせすることはご遠慮ください。


本懇談は、鎌倉市が進めてきた「障害者2000人雇用」の達成報告と、それを超えた「就労困難者」全般への支援、さらにはデジタル技術を活用した工賃向上や法整備の動向まで、多岐にわたる先進的な議論が行われました。

1. 鎌倉市「障害者2000人雇用」の背景と達成

松尾崇市長は、鎌倉市が障害者雇用に注力する原点として、自身の学生時代の経験を語りました 。近所で「危ない人」と誤解されていた自閉症の男性が、誰よりも真面目に、かつ職場を明るく盛り立てながら働いている姿を目の当たりにしたことが、市長の障害者雇用に対する認識を根本から変えたといいます 。

その後、岡山県総社市の片岡市長が掲げた「障害者1000人雇用」に感銘を受け、鎌倉版としてオマージュしたのが「2000人雇用」プロジェクトの始まりです

  • 現状の成果: 令和5年11月末時点で、障害者手帳所持者の雇用数は2,329人に達し、当初目標の2,000人を大きく上回る成果を上げています 。
  • 市の条例と計画: 平成31年に施行された「鎌倉市共生社会の実現を目指す条例」に基づき、市長のマニフェストから総合計画へと落とし込み、全庁的に取り組んできた結果です 。

2. 「鎌倉市障害者2000人雇用センター」によるワンストップ支援

本プロジェクトの核となっているのが、2018年に設置された「2000人雇用センター」です 。スタッフ5名体制で、生活相談から職場定着までを一貫してサポートしています

  • 利用者向け支援: 経済的自立だけでなく、健康状態や生活課題(転居、年金申請、通院同行など)にまで踏み込んだ支援を行っています 。就職はゴールではなく「通過点」と捉え、現場訪問による定着支援を重視しています 。
  • 企業向け支援: 法定雇用率の達成を目指す企業に対し、業務の切り出し(マッチング)や、ジョブコーチによる集中的な現場指導(約1ヶ月の付き添いなど)を提供しています 。
  • 庁内ワークステーション: 市役所2階には、精神・知的障害のある方が会計年度任用職員として働く「ワークステーション鎌倉」を設置 。郵便配布やデータ入力などの実務を通じて、一般就労へのスキルを身につける場として機能しています 。

3. デジタル化(DX)による工賃向上とBPO事業

山本博司氏は、日本財団の政策アドバイザーとしての立場から、障害者の工賃を劇的に向上させるための「デジタル系業務」の重要性を強調しました

  • 国立国会図書館のスキャン事業: 日本財団が受託した約7億円規模の蔵書デジタル化事業を、全国13箇所のB型事業所が担うことで、月額工賃を従来の2万円未満から8万円〜10万円へと引き上げた事例を紹介 。
  • 地方自治体との連携: 福岡県や愛媛県では、児童相談所の記録台帳や建設部の図面スキャンなどのデジタル業務を「障害者優先調達推進法」を活用して発注しており、鎌倉市でも同様の展開が期待されています 。
  • デジカメ(デジタル鎌倉)プロジェクト: VALT JAPANと連携したBPO事業(デジカメ)では、年間約3,000万円の予算に対し、利用者が稼ぎ出す報酬が約1,000万円に達しており、1人あたりの実質的な行政支援コストを抑えつつ高い成果を上げていることが示唆されました 。

4. 就労困難者・ひきこもり支援への拡大

懇談では、障害者手帳の有無にかかわらず、ひきこもりや生活困窮など「就労に困難を抱える人々」を包括的に支援する枠組みについても議論が及びました

  • 超党派議連の動き: 野田聖子議員を会長とする「就労困難者支援に関する超党派議連」では、カテゴライズ(縦割り支援)を廃し、困難を抱える全ての人が社会参加できる「基本法」の整備を視野に入れています 。
  • 鎌倉市の先駆性: 鎌倉市は、ひきこもり支援にも多額の予算を投じており、在宅と通所を組み合わせた就労支援を行っています 。これは「国の体制を待たずして市が独自に判断している」と高く評価されました 。

5. 地域生活支援拠点と専門的支援の法整備

山本氏からは、自身が関わった近年の法整備と、それに基づく地域での展開について説明がありました

  • 地域生活支援拠点事業: 障害者総合支援法の改正により、24時間365日の相談体制や緊急時の一時預かりを担うコーディネーターの配置が明文化されました 。鎌倉市でも社会福祉法人をベースにした相談支援体制が着実に進んでいます 。
  • 高次脳機能障害者支援法: 2024年4月から施行される新法により、外見からは分かりにくい記憶障害や感情コントロールの課題を持つ方への支援が強化されます 。鎌倉市では既に当事者・家族交流会を試験的に開催しており、ケアマネジャー向けの研修もスタートしています 。
  • 医療的ケア児者支援法(改正案): 今通常国会で成立が見込まれる改正法では、大人になった医療的ケア児やALS、脊髄損傷の方々の「社会参加・就労」に光を当て、IT技術(目線入力や分身ロボット)を活用した雇用環境の整備を目指しています 。

まとめと今後の展望

鎌倉市は「2000人雇用」という数的目標を達成し、現在は「雇用の質の向上」と「対象の拡大(就労困難者全般)」という次のフェーズに移行しています 。

市長は、総社市の事例に触れつつ「次は3000人を目指すのか、あるいは質を重視するのか」という問いに対し、数字に囚われすぎず、一人ひとりが自分らしく働ける環境づくりを継続する意向を示しました

山本氏ら訪問団は、鎌倉市のモデルは「地域インパト」が非常に大きく、国の法整備を牽引する力があると総括 。特にデジタル系業務の共同受注窓口の整備や、高次脳機能障害、医療的ケア者への就労支援において、鎌倉市が今後も全国のトップランナーとして事例を発信し続けることへの期待が寄せられました