障害者福祉・就労・雇用で厚労省の担当官と意見交換:永田町

23日は、参議院議員会館の前参議院議員室にて、山本博司前参議院議員、元厚労省障害者雇用対策課長・労働局長を歴任した小野寺徳子さんと共に、厚労省障害福祉課(就労支援など)・企画課や職業安定局障害者雇用対策課の担当者と意見交換を行いました。

内容は今年度(令和7年度補正予算概要)と令和8年度の予算概要について。
意見交換についての内容は以下に要約しています。

障害福祉・就労支援施策の現状と将来展望:ヒアリング要約

障害者雇用の全体像と推移
現在、日本における障害者の雇用状況は、企業における雇用者数が70.5万人(直近報告)に達し、22年連続で過去最高を更新しています。ハローワークを通じた就職件数も高い水準を維持しており、特別支援学校の卒業生や障害福祉サービス利用者が一般企業へと移行する流れが加速しています。
一方で、法定雇用率の算出根拠となる実雇用率は2.1%となっており、除外率の引き下げ等の影響もあり、率としては横ばいの状況にあります。今後は、雇用の「数」だけでなく、難病患者の雇用促進や「雇用の質」の向上が大きな論点となっています。

  1. 就労系障害福祉サービスの役割と課題
    一般就労への架け橋となる「就労系障害福祉サービス」には、主に以下の3類型が存在します。

    ①就労移行支援
    一般就労への移行を目的とした期限付き(原則2年)のサービスです。近年、移行者数は伸びていますが、地域によっては利用者の確保や事業運営に課題を抱える事業所も見られます。

    ②就労継続支援A型(雇用契約あり)
    最低賃金を保障しながら生産活動を行うサービスです。近年、株式会社による参入が増加し、賃金水準も右肩上がりですが、一部で「生産活動の収支」が不適切な事業所が存在することが問題視されています。

    ③就労継続支援B型(雇用契約なし)
    工賃(報酬)を支払いながら活動するサービスで、総費用額は約6,000億円と、就労系サービスの中で最大規模です。令和6年度の報酬改定により、工賃算出式が「1日あたり」に変更された影響で、全国的に平均工賃が上昇傾向にありますが、これも算出方法の変更による見かけ上の上昇という側面があり、実態に合わせた調整が求められています。
  2. 令和8年度の緊急的な報酬改定と適正化
    持続可能な制度構築のため、令和9年度の抜本改定を待たずに、令和8年度に「緊急的な応急対応」としての報酬改定が行われる方針です。

・移行加算の適正化(キャップ制の導入)
・就労継続支援B型の基本報酬の見直し
・新規指定事業所への抑制的単価の適用

  1. 新たな支援制度:就労選択支援の開始
    令和6年10月より、本人の意向と適性を踏まえた「就労選択支援」事業が開始されました。
    ・目的: 障害者が就労先(一般雇用か福祉的就労か)を決定する前に、客観的なアセスメントを行い、適切な進路選択を支援すること。
    ・質の担保: 自法人への誘導を防ぐため、自法人への紹介割合が高い場合に報酬を減額する「減算」制度を導入。
    ・その他
  2. 雇用施策と難病・就労困難者への対応
    厚生労働省内の「障害者雇用のあり方に関する研究会」では、以下の論点が議論されています。
    ・難病患者の雇用促進: 障害者手帳を持たない難病患者や発達障害者等、個別の「就労困難性」をどのように評価し、法定雇用率のカウント対象に含めるか。
    ・雇用の質と差別解消: 合理的配慮の提供義務化に伴い、職場での定着支援や差別解消ガイドラインの策定が進んでいます。
  3. 令和7年度補正予算・令和8年度概算要求の重点事項
    「医療・介護・障害福祉支援パッケージ」として、以下の予算措置が講じられます。
    ① 賃上げ対応(最優先課題)
    ・内容: 障害福祉従事者に対し、1人あたり月額平均1万円相当の賃上げを実施。
    ・対象拡大: 従来の直接ケア職員だけでなく、事務職員を含む全職員に対象を拡大したことが大きな特徴です。
    ・実施時期: 令和6年12月から令和7年5月までは補正予算で対応し、令和7年6月以降は「令和8年度臨時報酬改定」にて検討。

    ② 生産性向上とDXの推進(5.6億円規模)

    ・サポートセンターの設置: 各都道府県に「生産性向上サポートセンター」を設置し、ICT機器(タブレット、ソフトウェア、ロボット等)の導入や、それに伴う職員研修を支援します。

    ③ 施設整備と国土強靱化(約100億円規模)
    ・一般の施設整備費(26億円)に加え、災害対応能力強化のための「国土強靱化分」として老朽化した施設の耐震化や自家発電設備の導入を強力に推進します。
  1. まとめと今後の方向性
    令和8年度の緊急改定は、不適切な事業運営に対する「適正化(チェック機能)」の強化であり、真面目に生産活動や移行支援に取り組む事業所が適切に評価される仕組みへの再構築です。また、賃上げやDX推進といった「人材確保・業務効率化」への投資を加速させることで、サービス提供体制の基盤を固める狙いがあります。
    今後は、令和9年度の法改正に向け、厚生労働省内の「雇用」と「福祉」の部局がさらに連携を強め、重度障害者や難病患者も含めた「誰もが希望に応じて働ける社会」の実現に向けた制度設計が加速していく見通しです。