NPO法人クロスジョブ設立15周年記念イベント「CHANCE&CHALLENGE」 2:大阪府堺市

前回のブログに続き、NPO法人クロスジョブ設立15周年記念イベント「CHANCE&CHALLENGE」について報告します。

NPO法人クロスジョブ設立15周年記念イベント「CHANCE&CHALLENGE」 1:大阪府堺市

本日は、大阪府堺市にある、国際障害者交流センター「ビッグ・アイ」で開催された、NPO法人クロスジョブ設立15周年記念イベント「CHANCE&CHALLENGE」に参加しました。…


今回は記念講演として、元福岡労働局長の小野寺徳子氏による『「共生社会の実現に向けて」~行政、家族の立場から「はたらく」を考える~』と題して約1時間に渉りお話しされた内容について書きます。


共生社会の実現に向けて行政・家族の立場から働くを考える
講演者:小野寺 徳子 氏(元厚生労働省障害者雇用対策課長・元福岡労働局長)

はじめに:二つの視点から見つめる「働く」ことの意義

本日、NPO法人クロスジョブの設立15周年記念イベントが盛大に開催されますことを心からお慶び申し上げます。また、このような記念すべき場にお招きいただき、誠にありがとうございます。クロスジョブの濱田代表とは、私が福岡労働局長として勤務していた際、福岡事業所の開設直後にお目にかかったのがご縁の始まりです。当時からクロスジョブが高次脳機能障害という難しい分野に果敢に挑戦されていることは存じ上げており、以来、様々な形で連携させていただいております。

本日は、長年、障害者雇用施策に携わってきた行政官としての視点と、実は私自身も31歳になる障害のある子を持つ親として、家族という二つの立場から、「働く」ということについて皆様と考える時間を共有させていただきたいと思います。堅苦しい話にならないよう、制度の変遷なども交えながら、これからの日本がどうあるべきか、私なりの考えをお話しさせていただきます。

少し自己紹介をさせていただきますと、私は大学時代、親御さんたちが立ち上げた就学前の子どもたちのための療育サークルでボランティアをしておりました。そこで、子どもたちの成長に寄り添う中で、ご家族が次に抱く不安、すなわち「この子たちが大きくなった後、社会でどう幸せに生きていけるのか」という問いに、現場の一職員として何も答えられない自分に気づきました。社会の仕組みの中で、彼らが活躍できる場を作りたい。その想いから、旧労働省に入省いたしました。

幸運にも、行政官としてのキャリアの最終盤、令和元年から5年にかけて障害者雇用対策課長という、最もやりたかった仕事に就かせていただきました。それまでのキャリアでは直接的に障害者施策を担当することはありませんでしたが、働くことが一人ひとりの生きがいや尊厳をいかに形作るかを強く感じており、障害のある方、高齢者、女性、生活に困窮されている方など、様々な立場の方の「働く」を実現することに携われたことは、私の行政官人生における大きな誇りです。本日は、そうした経験から得た知見と、一人の親としての想いを皆様にお伝えできれば幸いです。

第1部:日本の障害者雇用制度のこれまでと現状

制度の変遷と大きな流れ
クロスジョブが設立された2010年前後は、日本の障害者施策が大きく転換した節目の時期でした。国連で採択された「障害者権利条約」の批准に向け、国内法の整備が急ピッチで進められたのです。障害者基本法の改正、障害者自立支援法から総合支援法への移行、そして私が所管しておりました障害者雇用促進法も平成25(2013)年に大きな改正が行われました。このような法整備の進展と軌を一つにして、障害者雇用は新たなステージへと進んでいきました。

日本の障害者雇用を力強く推進してきた屋台骨は、二つの制度です。一つは「障害者雇用率制度」、もう一つは「障害者雇用納付金制度」です。この二つが両輪となって機能している点は、諸外国にも類を見ない日本独自の仕組みであり、今日、約70万人に迫る障害のある方々が企業で働くという実績を築き上げてきた原動力となっています。

まず、「法定雇用率制度」についてご説明します。これは、事業主が労働者を雇用する際に、その規模に応じて一定割合以上の障害者を雇用することを義務付ける制度です。この「率」は、恣意的に決められるものではなく、数式に基づいて算出されます。分母は、国内の一般の労働者(週20時間以上働く方)と失業者の総数。分子は、同じく週20時間以上働く、あるいは働きたいと願う、身体・知的・精神の障害者手帳を所持する対象障害者と失業者の総数です。この計算式によって、社会全体で労働力に占める障害者の割合を算出し、それを企業が分担して雇用機会を確保するという考え方に基づいています。

雇用率は段階的に引き上げられており、昨年(2024年)4月には2.5%となりました。これは従業員40人の企業で1人の障害者を雇用する計算です。最終的には令和8(2026)年7月に2.7%まで引き上げられることが決まっています。

もう一つの柱が「納付金制度」です。これは、雇用率制度の実効性を担保するための経済的な調整機能を持つ制度です。法定雇用率を達成していない企業からは、不足する障害者1人につき月額5万円の納付金を徴収します。一方で、法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業には、その超過分に対して調整金が支払われます。集められた納付金は、障害者雇用に伴う施設の整備や支援員の配置などにかかる費用を助成する「助成金」の財源ともなります。これは決して「罰金」ではなく、障害者雇用に伴う経済的負担を企業間で調整し、社会全体で支えていこうという理念に基づいています。この納付金制度は、当初常時雇用労働者300人超の企業から始まりましたが、現在では100人超の企業まで対象が拡大しています。

雇用の推移と変化
これらの制度に支えられ、日本の障害者雇用は着実に進展してきました。特に、クロスジョブが設立された2011年頃から、実際の雇用者数は急激な右肩上がりのカーブを描いています。この背景には、企業のコンプライアンス意識の高まりや、障害者差別解消法などの理念の浸透があります。

雇用の内訳を見ると、かつては身体障害者がその大半を占めていましたが、近年は劇的に変化しています。現在では、精神障害者保健福祉手帳を持つ方が新規雇用の半数以上を占めるまでになりました。これからの障害者雇用をさらに前進させるためには、精神障害や発達障害のある方々が、いかにして長く安定的に活躍できる環境を社会全体で構築していくかが、極めて重要な課題となっています。

これに伴い、行政の支援体制も変化してきました。ハローワークでは、精神保健福祉士(PSW)やカウンセラーといった専門知識を持つ「トータルサポーター」を配置し、精神障害のある方の相談支援を強化してきました。その後、発達障害のある方、さらには大学在学中に困難さを自覚し、就職活動でつまずく学生への支援へと、対象を広げて専門性を高めてきました。現在はこれらの支援を統合し、より個別性の高いニーズに対応できる体制を整えています。

制度の課題:手帳主義とカテゴライズの問題
しかし、現行制度には依然として大きな課題が残されています。それは、いわゆる「手帳主義」の問題です。現在の雇用率制度は、基本的に障害者手帳の有無によって対象者を区分しています。しかし、手帳は持っていなくとも、精神疾患の診断を受け通院している方や、発達障害の特性により働きづらさを抱えている方は数多く存在します。

私が課長を務めていた際の法改正議論でも、こうした手帳を持たない方々をどう制度の対象に含めるかが大きな論点となりました。例えば、精神科の自立支援医療受給者証や、発達障害の診断書をもって対象とできないか、といった意見も出されました。しかし、これらの障害は極めて多様かつ個別性が高く、実態を踏まえると、安易に一つのカテゴリーにまとめ「障害者」というレッテルを貼ることは、大きな違和感を伴います。

50年以上続いてきた雇用率制度は、障害を個人の心身機能の障害と捉える「医療モデル」に基づいて構築されてきました。しかし、本来目指すべきは、障害とは個人の機能不全ではなく、社会の側にある障壁との相互作用によって生み出されるものだと捉える「社会モデル」への転換です。例えば、車いすユーザーにとって、スロープが整備されれば、移動に関する「障害」はなくなります。同様に、その人の特性に合わせた環境調整や支援があれば、困難さは解消され、決して「障害者」ではないのです。

今後の制度議論においては、「この障害」「あの障害」とカテゴライズしていくのではなく、一人ひとりの特性と働く上での困難性を丁寧に見極め、その可能性を最大限に引き出すための支援は何か、という視点で評価していくことが不可欠だと考えています。

第2部:雇用の「質」を問う ― 雇用率ビジネスと法の理念

「雇用率ビジネス」という問題提起
近年、障害者雇用をめぐる新たな課題として「雇用率ビジネス」あるいは「農園ビジネス」と呼ばれるものが急増しました。私が課長に就任した頃から特に顕著になった現象です。これは、障害者雇用のノウハウがない、あるいは自社での雇用が難しいと考える企業に対し、農園などの特定の場所で働く障害者を「紹介」し、雇用率達成を代行するビジネスモデルです。

仕組みはこうです。サービス提供事業者が大規模な農園やビニールハウスを用意し、その区画を雇用率未達成の企業(サービス利用企業)に貸し出します。利用企業は、紹介された障害のある方々と直接雇用契約を結びますが、実際の就労場所はその農園であり、日常の業務管理や指導はサービス提供事業者が行います。利用企業は、サービス料を支払うだけで、手間をかけずに雇用義務を達成できるというわけです。

この仕組み自体は、直ちに法律に違反するものではありません。雇用契約は企業と労働者の間で直接結ばれており、形式上の要件は満たしています。また、働く障害のある方やそのご家族にとっては、地域で一般就労が難しい場合に、比較的高い給与と社会保険が保障される安定した職場として、大変ありがたい存在であるという側面も否定できません。実際に感謝のお手紙をいただくこともありました。国が多様な価値観に対して「こうあるべきだ」と一方的に断罪することはできません。

しかし、このモデルには看過できない問題点が潜んでいます。それは、雇用主であるはずの企業が、雇用する障害のある社員とほとんど関わりを持たず、彼らが農園という閉鎖的な環境に「置き去り」にされてしまうケースが少なくないことです。雇用管理責任を果たすべき企業の意識は希薄になりがちで、障害者雇用促進法が掲げる理念とは相容れない実態が生まれていました。

この雇用率ビジネスの広がりは、私たちに重要な問いを投げかけました。障害者雇用は、単に雇用率という「数」を達成することだけが目的なのだろうか。この問いこそが、近年の法改正で「雇用の質」を重視する方向へと舵を切る大きなきっかけとなったのです。

障害者雇用促進法の真の目的
ここで、障害者雇用促進法の原点に立ち返る必要があります。この法律の目的は、単に企業に雇用率の達成を義務付けることではありません。その基本理念(第3条)には、障害のある人も、その能力を最大限に発揮する機会を得て、職業を通じて経済社会を構成する一員となる、「共生社会の実現」が謳われています。雇用率制度は、その理念を実現するための「手段」に他なりません。

そして、法律は企業だけでなく、働く障害のある方自身にも、職業人としての自覚を持つことを求めています(第4条)。自らの能力を高める努力を続け、企業の一員としてその発展に貢献すること。それこそが、職業人として自立する道であると示しています。

これに応える企業の役割(第5条)は、一人ひとりの能力を正しく見極め、その力が最大限に発揮できるような活躍のステージを用意することです。そして、今回の法改正で特に強調されたのが、「能力開発及び向上」に取り組むという責務です。これは、障害の有無にかかわらず、企業が従業員の成長を支援するのは当然のことです。組織の成長は、個々の従業員の成長の総和によってもたらされます。障害のある社員もまた、企業の成長を担う重要な一員として、その能力を伸ばし続ける機会が保障されなければならないのです。

この「雇用の質」への転換は、雇用率ビジネスが突きつけた課題に対する、私たちからの明確な回答です。数の追求だけに走るのではなく、一人ひとりが職業人として成長し、真に共生社会の一員となる。それこそが、障害者雇用の本来あるべき姿なのです。

第3部:障害者雇用が企業と社会にもたらすもの
企業にとっての真のメリット
私は課長在任中、全国の数多くの企業の障害者雇用現場を訪問しました。その中で痛感したのは、本気で障害者雇用に取り組むことが、いかに企業自身に多大なメリットをもたらすか、ということです。これは、義務や社会貢献といった次元の話ではありません。特に中小企業において、一人の障害者を真摯に受け入れることで生まれる効果は絶大です。

第一に、「職場環境の改善」が挙げられます。障害のある方、特に発達障害などの特性を持つ方は、私たちが「暗黙の了解」として済ませているコミュニケーションが通じないことがあります。例えば、休憩室に置かれたお土産を「食べていいよ」と言われ、30個全てを食べてしまった、という私の息子のエピソードもその一例です。どうすれば意図が正しく伝わるか、どうすれば彼らが力を発揮できるか。社員たちが知恵を出し合うプロセスを通じて、職場には自然と対話が生まれます。「わからないことは、わからないと言っていい」「失敗しても大丈夫」という雰囲気が醸成され、組織の「心理的安全性」が高まるのです。この心理的安全性は、組織全体の生産性を向上させることが多くの研究で証明されています。

第二に、「業務プロセスの改善」です。ある社員にとって分かりにくい、あるいはやりにくい作業は、実は他の多くの社員にとっても非効率なものである可能性があります。障害のある社員が躓く点を改善しようと、作業手順をマニュアル化したり、倉庫の配置を色分けして分かりやすく整理したりした結果、職場全体のミスが減り、業務効率が格段に向上したという事例は枚挙に暇がありません。

このように、一人の多様な人材を受け入れ、その人が直面する困難を組織全体の課題として捉え、解決していくプロセスこそが、企業を成長させるのです。この試行錯誤のプロセスは、企業にとってかけがえのない財産となります。お金を払って雇用率を達成するだけのビジネスでは、この最も貴重な成長の機会を失ってしまいます。

もはや、障害者雇用はコストではありません。時間や労力はかかりますが、それは企業の未来を創る「人的投資」であり、企業の競争力を高める「経営戦略」そのものです。多くの先進的な企業の経営者は、皆そう口を揃えます。私は、今注目されている「人的資本経営」の入り口こそが、障害者雇用にあると確信しています。

これからの日本社会と福岡労働局長時代の挑戦

ここで、視点を日本社会全体に広げてみましょう。皆様ご存知の通り、日本は深刻な人口減少と超高齢化の時代に突入しています。リクルートワークス研究所の試算によれば、2040年には1100万人もの労働力が不足すると言われています。介護、医療、物流といった、私たちの生活に不可欠なサービスは、AIやICTでは代替しきれない「人手」を必要とします。このままでは、今まで当たり前に享受してきた社会生活が維持できなくなるかもしれません。

この「労働力供給制約」という大きな課題を乗り越えるためには、企業は「マインドチェンジ」を迫られます。これまでの採用基準や人材像に固執し、「雇える人がいない」と嘆いている場合ではありません。発想を転換し、多様な人材一人ひとりに着目し、「その人がどうすれば力を発揮できるか」を考え、人に合わせて仕事や環境を創り出していく必要があります。

私は福岡労働局長に赴任した際、この考え方を実践に移しました。本省では雇用率制度を司る立場でしたが、現場では「義務だから」というアプローチを一切やめました。ハローワークには多くの求人が寄せられますが、充足率は決して高くありません。そこで、人手不足に悩む企業に対し、「この仕事の一部なら、障害のあるこの方ができますよ。試してみませんか?」と積極的に働きかけたのです。これが「福岡モデル」と呼ばれる取り組みです。

もちろん、企業には不安があります。その不安を解消するため、法改正で創設された「認定事業者制度」を活用しました。これは、障害者雇用のノウハウを持つ先進企業や支援機関などを労働局が「認定」し、これから取り組む企業への伴走支援を委託する仕組みです。認定事業者が、仕事の切り出しからマッチング、採用後の定着支援までを無料でサポートすることで、企業の挑戦へのハードルを下げ、背中を押す。この取り組みを通じて、これまで障害者雇用に縁のなかった多くの企業が、新たな一歩を踏み出し始めています。

障害者雇用への真摯な取り組みは、企業の社会的評価にも繋がります。ある製薬会社(エーザイ)の分析では、障害者雇用率の高さが、企業の将来性を示す株価指標(PBR)と統計的に有意な相関関係にあることが示されました。時間はかかりますが、多様性を尊重し、人を活かす経営が、持続的な企業成長に繋がることを、投資家もまた評価し始めているのです。

第4部:家族の立場から、そして共生社会の未来へ

親として願うこと、そして支援制度への期待
最後に、障害のある子の親として感じてきたことをお話しさせていただきます。浄土宗の僧侶の言葉として、日本理化学工業の故大山会長がよく引用されていた「人間の究極の4つの幸せ」というものがあります。それは、「愛されること」「褒められること」「必要とされること」「役に立つこと」です。この4つの幸せは、奇しくも「働く」ことを通じて得られるものばかりです。今日の表彰式で、企業の皆様が働く仲間を心から「愛し」、その働きを「褒め」、かけがえのない戦力として「必要」としている姿を拝見し、ご本人たちも「役に立っている」という実感に満ち溢れていることだろうと感じました。障害の有無にかかわらず、この幸せを誰もが実感できる社会であってほしいと心から願います。

私の息子も、特別支援学校高等部を卒業後、特例子会社に就職しましたが、3年で一度リタイアしました。その後、様々な経験を経て、今は再び企業で働いています。若いうちの失敗や挑戦は、決して無駄にはなりません。日本には、たとえ企業就労でつまずいても、福祉というセーフティネットがあります。だからこそ、若者には果敢にチャレンジしてほしいと思います。

その挑戦を支える上で、客観的なアセスメント(評価・分析)が極めて重要です。私自身、息子が高校を卒業する際、十分な情報がないまま「絶対に企業就職だ」と思い込んでいました。今思えば、移行支援事業所でもう少し職業準備性を高めるという選択肢もあったかもしれない、という反省があります。親の思い込みだけでなく、第三者を含めた客観的な情報に基づき、本人の可能性を最大限に引き出す道筋を共に考えるプロセスが必要です。

その意味で、今年度から始まる「就労選択支援」という新しいサービスには大きな期待を寄せています。この制度の議論が始まったとき、私は母親として、「何ができないか」ではなく、「できるようになるためには、どんな支援や環境が必要か」というエンパワーメントの視点でアセスメントを行ってほしいと強く訴えました。この制度が、一人ひとりの強みと可能性を引き出すための仕組みとして正しく機能し、根付いていくこと。それが、画一的な雇用率制度から、個々の就労困難性に応じた支援へと移行していくための大きな一歩になると信じています。

ご家族の皆様にお伝えしたいのは、制度や支援策は万能ではないということです。だからこそ、諦めずに情報を集め、利用できるものを賢く組み合わせ、お子さんと一緒に学び、試行錯誤を続けてほしいと思います。親として今できることに精一杯取り組み、お子さんと共に豊かな時間を過ごしていただきたいと願っています。

結論:多様性が日本の未来を拓く
私は、障害者雇用をやりたいという一心で役所に入り、そして障害のある子を授かりました。この経験を通じて確信しているのは、これからの日本社会のキーワードは「多様性」だということです。

ニューロダイバーシティ(脳の多様性)という言葉があります。朝型の人、夜型の人、誰もが異なる思考や認知の特性を持っています。障害もまた、その多様性の一つの現れです。障害のある人々は、私たちが無意識に作ってきた社会の「当たり前」に対して、「それは本当に誰にとっても快適なのか?」と問いを投げかけてくれる存在です。彼らが働きやすく、暮らしやすい社会を創ることは、結果として、誰もが居心地の良い社会を創ることに繋がります。

私は厚生労働省を早期退職し、市長選挙に挑戦しました。残念ながら力及ばずでしたが、制度を創るだけでなく、それを地域でどう活かし、変えていくかが何よりも重要だと考えたからです。地域から実践のモデルを創り、それが国全体の制度を変えていく。そうしたボトムアップの変革が今こそ求められています。

多様性は、時に軋轢や困難を生むかもしれません。しかし、それを乗り越えた先にこそ、新たな価値やエネルギーが生まれます。本日お集まりの皆様が、それぞれの立場で多様性を包み込み、力に変えていく。その一つひとつの取り組みが、これからの日本を、もっと豊かで、もっと素晴らしい国にしていくと、私は固く信じております。

ご清聴、誠にありがとうございました。