「へき地医療DX~鳥羽市におけるオンライン診療~」「第36回Bluesky勉強会」(2):永田町

5月1日夕方は山本博司参議院議員が主催して運営する「第36回Bluesky勉強会」が参議院議員会館で開催致しました。


前回は(1)として『「へき地医療DX~鳥羽市におけるオンライン診療~」「第36回Bluesky勉強会」(1):永田町』で「3)「オンライン診療に関する医療法の見直しについて」梶野 友樹氏(厚生労働省 医政局 総務課 課長)」の講演を要約してお伝えしました。

「へき地医療DX~鳥羽市におけるオンライン診療~」「第36回Bluesky勉強会」(1):永田町

5月1日夕方は山本博司参議院議員が主催して運営する「第36回Bluesky勉強会」が参議院議員会館で開催致しました。 このBluesky勉強会に事務局に、当団体の金子訓隆代表理事…


今回は特別講演としてお招きした小泉 圭吾氏(鳥羽市立神島診療所長(医師))の講演内容『鳥羽市神島における離島オンライン診療事業について』を要約してお伝えします。

小泉圭吾所長(鳥羽市立神島診療所)の講演要約

【プロフィール】
小泉圭吾所長は医師歴22年で、うち14年を三重県鳥羽市の神島診療所で勤務。総合診療医として全国各地の僻地医療を経験後、神島に戻り、地域医療の持続可能性向上に取り組んでいる。海外の僻地医療視察(米国オレゴン州)や沖縄・長崎・宮城・北海道など日本全国の離島医療経験を有する。

【講演要約】
小泉圭吾所長は鳥羽市立神島診療所で僻地医療に従事し、オンライン診療の推進に取り組んでいる医師である。小泉氏は医師として22年、そのうち14年を神島診療所で勤務した経験を持ち、全国各地やアメリカのオレゴン州でも僻地医療の研修を行った。その経験を活かし、鳥羽市の離島地域における人口減少や高齢化、医療資源不足という課題に対して、ICTを活用した「バーチャルタワー離島病院構想」を構築した。

鳥羽市の僻地神島は、人口が昭和30年代の1400人から250人以下に激減しており、患者数の減少に伴う診療所の収支悪化と医療スタッフのモチベーション低下が深刻化していた。この状況を改善するため、小泉氏は2017年から、クラウド型電子カルテやオンライン診療を活用し、医師の負担を軽減しながら持続的に医療を提供できる体制づくりを模索した。
当初、市の健康福祉課は財政難や前例がないことを理由に抵抗したが、理解ある職員の登場によりプロジェクトが進展した。山口県で開催された僻地遠隔医療推進協議会を参考に、鳥羽市内の各離島診療所をICTで連携させ、医師、看護師、行政職員、保健師、ケアマネージャーが一体となった多職種チーム「トライメント」を結成した。

令和2年度、国土交通省の「スマートアイランド推進実証調査」に採択され、セコム医療システムの協力を得て全診療所にクラウド型電子カルテを導入した。これにより医師・看護師が遠隔から患者のカルテ情報にアクセスできるようになったほか、悪天候や夜間でもオンラインで診療が行えるようになった。また、バイタルサインをリアルタイムで遠隔モニターできるシステムを導入し、看護師が患者宅で診察補助を行い、医師が遠隔から診療指示を出すことで医療の質を高めた。
診療所への移動が困難な高齢者や、医師不在時の急患対応にもオンライン診療は有効で、実際に腹膜炎や一酸化炭素中毒など緊急性の高いケースでも迅速な対応が可能になった。さらに、島内にオンライン診療室を設置し、診療と薬の処方を一か所で完結する仕組みを導入した。
離島に限らず本土側の診療所も含め、診療所をオンラインで繋ぐ医療モビリティサービス(MaaS)も展開。特別仕様の車両を用いて患者の送迎や車内でのオンライン診療を可能にし、柔軟な診療提供を実現した。

令和4年度には「スマートアイランド推進実証調査」で移動支援をテーマに採択され、診療所間の移動が難しい患者に対しても診療機会を提供。これにより医師の移動負担を軽減しつつ、患者のアクセス向上を図った。
また、見守りロボット「ボッコエモ」を導入し、高齢者の孤独感や不安を軽減する取り組みを実施。ロボットが高齢者宅で声かけや見守りを行い、異常があれば即座に医療機関と連携する仕組みを構築した。これにより、高齢者が安心して自宅で生活できる期間が延び、住み慣れた環境での生活を支援している。
さらに、歯科保健の分野でもオンライン診療を導入する取り組みを検討。歯科衛生士が離島で撮影した口腔内画像を遠隔の歯科医師と共有し、歯科検診の受診率を向上させる実証実験を行ったが、現行法では歯科医師による直接審査が必要なため、制度的な課題が残っている。

制度面では、オンライン診療はコロナ禍を機に大きく規制緩和されたが、依然として診療報酬が対面診療より低く、財政的負担が大きい僻地では継続が難しいことが課題である。また、看護師がオンライン診療で行う医療行為の範囲が限定されているため、今後の拡大が望まれている。
看護師不足の問題も深刻で、僻地の医療提供において看護師の存在は非常に重要である。看護師の処遇改善とやりがい向上を目的に、「僻地ジェネラルナース」養成研修を実施するなど、人材育成にも注力している。

小泉氏は、人口減少社会において従来型の僻地医療体制は限界を迎えており、オンライン診療とモビリティの両面から医療アクセスを改善し、患者と医療者双方が満足できる仕組みの構築を目指している。そのためには診療報酬体系の見直しや法律・制度の柔軟な運用、看護師の権限拡大などが必要であると訴えている。
今後は、鳥羽市の取り組みを全国の僻地や離島に広め、日本全体の僻地医療の発展に寄与することが目標であり、小泉氏はこの仕組みや経験を共有し、さらなる発展を目指している。