これからの日本の人口減少と高齢化社会について

以下は、厚生労働事務次官が日本の人口減少と高齢化社会について講演した内容を元にした要約です。講演では、高齢化の進展状況や将来見通し、またそれに伴う医療・介護・就労の問題や課題について幅広く言及されています。

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厚生労働事務次官の講演は、日本の人口構造が変化していく過程や、現時点(2025年)から先々(2040年~2050年頃)までの高齢化の見通しを示すデータを基に進められました。まず大きな論点として挙げられたのは「65歳以上人口」「75歳以上人口」「85歳以上人口」という三つの年齢区分の高齢者数の伸び率であり、それぞれの人口が今後どう推移していくかによって、日本社会がどのような影響を受けるかについてです。

1.65歳以上人口の伸びの鈍化
講演で最初に示されたグラフでは、65歳以上の人口(以下「高齢者人口」)が毎年どの程度増加しているかが取り上げられました。安倍政権が発足した2014年頃には、高齢者人口が前年比で3.5%を超える伸びを示していました。しかし、2025年現在では0.2%増と、伸び率は大きく減少しています。そして2040年まで見通しても、1%を超えて急増するような年は見込まれていないとのことです。これはつまり、日本における65歳以上人口の急拡大の時期はすでにピークを過ぎており、今後は増加がやや緩やかになるという見通しを示しています。

2.75歳以上人口の動向と「75歳問題」
75歳以上の人口は、近年までは3~4%台の比較的高い伸び率を示していました。実際に直近3年間(2022年まで)は、3.8%、4.3%、3.9%といった伸びが続いていたそうです。しかし今後は徐々に伸び率が下がり、2030年代にはマイナスに転じるとの予測が示されました。近年よく言及される「75歳問題」とは、75歳以上の方々が増えることで医療・介護等の負担が急激に増加するという懸念を指しますが、今後の推移を考えると、そこまで極度に懸念する必要はないのではないか、と事務次官は述べています。

3.85歳以上人口の増加による認知症リスク
一方で、真に心配すべきは「85歳以上人口の増加」だという指摘がなされました。75歳になった「団塊の世代」が、今後10年ほどで85歳に達します。この年齢層において認知症が発症する確率は約6割に上るといわれており、したがって85歳以上人口が増えれば、認知症の方も大幅に増加する可能性があります。今後の医療や介護、特に認知症ケアに焦点を当てた対策が一層重要になると強調されています。

4.生産年齢人口(15~64歳)の減少と地域社会への影響
講演の次の焦点は、15歳から64歳までのいわゆる「生産年齢人口」がずっとマイナス傾向にあることです。若年層が減ることで労働力不足や支える側の減少といった問題が深刻化する恐れがあります。特に今後、地方を中心に人口がさらに減っていく中で、どのように地域社会が存続していくのかが大きな課題として提示されました。

また、講演では2050年時点で秋田県など一部の地域において、65歳以上人口の割合が50%を超えるという予測が示されました。つまり、2人に1人が高齢者という社会です。さらに多くの都道府県でも40%超に達する可能性があるといいます。このような状況下で、地域社会がどのような形をとるべきか、地域医療や介護の提供体制、さらにはコミュニティの再編成などが喫緊の課題だという問題意識が示されました。

5.医療・介護ニーズの変化:受診日数や要介護認定率の減少
一方で、明るい兆しとして、医療や介護の実態データが紹介されました。たとえば外来受診日数をみると、80~84歳の受診日数が2010年(平成22年)には年34.7日だったのに対し、2019年(令和元年)には28.8日に減少しているという数字が挙げられています。高齢者の外来受診日数が減少しているのは、健康意識の向上や医療技術の進歩など、複合的な要因が背景にあると考えられます。

また、要介護認定率についても、85~89歳の要介護認定率が2015年には36.3%だったのに対し、2023年には33.2%へと減少しているというデータが示されました。これは、高齢者が要介護状態になる時期が遅れる(後ろ倒しになる)ことを示唆しており、日本人の健康寿命が伸びている証左の一つと言えます。

6.外国人の増加と地域社会への影響
さらに、これからの日本において重要な要素として取り上げられたのが「外国人住民の増加」です。2年前に厚生労働省が推計したデータでは、2070年には外国人比率が10%を超える可能性が示されています。現在(2020年代半ば頃)は外国人比率が2%ほどで、およそ50人に1人が外国人ですが、これが2070年には940万人、率にして10.8%に上昇するという予測です。コンビニで働く外国人比率が1割程度であることを例に挙げ、それと同程度の外国人の方が日本社会に定着する未来が考えられるとのことでした。

このように、外国人労働力が増える社会をどのように支え、相互に共生していくかが、人口減少が進む日本の地域社会にとって大きな課題になります。日本語教育や生活習慣の相互理解、行政サービスの多言語対応など、多方面で準備や整備が必要になるでしょう。

7.高齢者・女性・外国人のさらなる就労促進
人口減少下での労働力確保の方策として、講演では「女性・高齢者・外国人のさらなる就業率アップ」が挙げられました。まず高齢者の就業率をみると、65~69歳の就労率が52%、70~74歳でも34%に達しているといいます。つまり65歳から69歳では、実に2人に1人が就労しているという状況です。こうした高齢者の就業率の高さは世界的に見ても異例だとされ、日本社会では「65歳以上が一律に支えられる側」という考え方を改め、むしろ多くの高齢者が「働き手」として活躍しうる環境を整備することが重要だと指摘されました。

同時に、健康寿命をさらに伸ばし、働きやすい環境を作ることで、高齢者が長く生き生きと活躍できるようにしていく必要性も強調されました。既にデータとして、要介護認定率や受診日数が下がっていることもあり、高齢期を元気に過ごす人が増える傾向にあります。その流れを活かし、社会のあり方を再設計することが求められています。

8.「次の世代が夢を持って生まれてくる社会」へ向けて
講演の最後では、不安要素の多い人口減少・高齢化社会を乗り越えるためには「次の世代が夢を持って生まれてくる社会の実現」が何より重要だと述べられました。国としても様々な子育て支援・少子化対策が打ち出されていますが、実際に子どもが生まれ育つ地域を作っていくには、自治体や地域社会が主導的・主体的に動くことが不可欠だという提言です。

具体的には、地域における子育て環境の整備や、若い世代が安心して暮らせる住まい・雇用・教育の基盤づくりなど、身近な行政施策や住民同士の支え合いが鍵となるでしょう。こうした取り組みが積み重なることで、高齢化が進むなかでも地域社会を活性化し、人口減少に歯止めをかける一助となる可能性が示唆されています。

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以上が厚生労働事務次官の講演内容の要約です。要点を整理すると、

  1. 65歳以上人口と75歳以上人口の増加率は今後緩やかに推移し、特に75歳以上は将来的にマイナスとなる見通し。
  2. しかし85歳以上の人口増加こそが課題であり、認知症ケアなどに力点を置いた対策が急務。
  3. 生産年齢人口の減少は続き、特に地方では過疎化や地域コミュニティの維持が大きな問題になる。
  4. 高齢者の受診日数や要介護認定率は下がっており、健康寿命が延びるという明るい兆しも存在。
  5. 外国人比率は2070年に1割を超える見込みであり、多文化共生や外国人労働力の活用が重要となる。
  6. 高齢者・女性・外国人の就労促進を進めることで、労働力不足の緩和と社会の活力維持を目指す。
  7. 子育て支援や次世代に夢を与える社会づくりが、長期的な人口減少対策の要となる。

これらの論点は、高齢化がもたらすリスクと同時に、健康寿命延伸や労働参加率向上など、日本社会が変化の中で見いだしている可能性やポジティブな面も浮き彫りにしています。将来的には、85歳以上人口の増加と生産年齢人口の減少が同時に進むことになるため、医療・介護の提供体制や地域コミュニティのあり方、外国人との共生など、多様な視点から社会を再設計することが必須であると結論づけられています。