地域と多職種がつながる拠点─ムスビテラス東大宮と輝HIKARIの連携

ムスビテラス東大宮に込められた挑戦と対話の現場

2025年5月20日、当団体の正職員9名で、さいたま市見沼区に新たに設立された地域福祉拠点「ムスビテラス東大宮」を訪問しました。
この施設は、児童の支援にとどまらず、高齢者支援・障害福祉・貧困支援・子育て支援・就労支援など、あらゆる課題と向き合う多機能型拠点。行政の手が届かない「制度のはざま」に柔軟に対応し、民間の立場から地域共生を具現化しようとする姿勢が、現場の至るところににじんでいました。

今回はその記録を、懇談会の内容をお届けします。


「ムスビテラス東大宮」とは?──現場発信の地域共生モデル

「ムスビテラス東大宮」は、地域課題の解決に民間から挑む福祉複合拠点として、2025年4月からスタートした重層型支援の一環として誕生しました。

施設の設立に携わった管理者・本田光太郎さん-K.G.Style株式会社 医療事業部長-(以下、本田さん)は、元エンジニアでありながら、災害支援や教育、農業支援などを通じて福祉分野に転身した異色の実践者。東日本大震災をきっかけに、1000万円を自己借入してボランティアバスを自ら手配し、延べ6000人を被災地に送った実績も持ちます。

「支援が必要な人に、制度の壁ではなく、まず“来られる場所”をつくりたい」

その一言に、この施設の根幹となる思想が込められています。


「出会い」を起点に地域が変わる──参加者の自己紹介にこめられた多様な視点

懇談会の冒頭は、和やかな自己紹介タイムからスタート。本田さん、井上さん、中村さんをはじめ、参加者全員がこれまでの経歴や現在の活動、福祉への思いを語り合いました。

印象的だったのは、多職種の集まりであること。
井上さんは社会人になってから、社会福祉士と公認心理師の資格を取得し、高齢者介護からスクールソーシャルワーカーなども経験。また元養護教諭として40年近く学校での支援に携わった保健室の先生である中村さん。
当団体からは、社会福祉士、精神保健福祉士、理学療法士、言語聴覚士、保育士、キャリアコンサルタント志望の人事担当者など専門性も経歴もバラバラです。けれど、それぞれが「目の前の子どもと家庭の支援」を軸に、自らの専門性を超えて共に学び合う姿勢が見受けられました。

ある職員はこう語ってくれました。

「Excelで業務改善するのが好きで、最近Pythonも触り始めました。AIも使いながら、子どもや保護者との関係を大切にしたいんです」
日々の支援実践にICTや創造性を持ち込みながら、一人ひとりの発達や選択肢を広げたいという思いにあふれていました。


心理検査もできる?──「知る」ことを後押しする支援機能

今回、特に注目されたのがムスビテラスが提供する「心理検査」です。WISCやK-ABCなど、発達の特性や能力傾向を測定する検査を、ここでは臨床心理士や公認心理師と連携して受けることができます。

この取り組みは、さいたま市内ではほとんど前例のない試みです。公的機関では数ヶ月〜1年待ちともいわれる検査が、民間主導で早期に受けられる環境を整えたことに、保護者や支援者からの注目が集まっています。

検査を担当する井上さんはこう話します。

「私たちは診断を出せる医師ではありませんが、“その子を知る”ための入口として、検査をして活用をしてほしい」

発達に不安を感じながらも、「障害者」とレッテルを貼られることを恐れて支援を遠ざけてしまう保護者も少なくありません。そうした背景に配慮しながら、子どもの強みや可能性を一緒に探る場を提供しているのが、この施設の大きな魅力です。


多様な体験を生む「カルチャーセンター」──マジックもダンスもマインドフルネスも!

ムスビテラス内にある「カルチャーセンター」では、週4回程度、子どもから大人まで誰でも参加できる体験型プログラムが実施されています。

  • プロのマジシャンによるマジック教室
  • 地元ダンサーによる体を動かすワークショップ
  • 瞑想やマインドフルネスによる心の安定を図る講座
  • パーカッションや音楽活動を通じた表現活動 など

これらはすべて、単なるレクリエーションではなく、「自分の得意に気づく」「社会参加のきっかけをつかむ」ための重要な機会です。

輝HIKARI職員の一人は、「夏休み期間などに施設の子どもたちをグループで参加させてみたい」と話し、早速ダンス講師とのつながりを模索していました。


「絵が得意な子」が輝く場所──作品展示と500円のフィードバック

さらにユニークなのは、障害のある子どもたちのアート作品を展示・評価し、対価を支払うという取り組み。

ムスビテラスでは、子どもたちが描いた絵や作品を2週間単位で展示し、事業所経由で500円の展示料を支払う仕組みがあります。年齢や障害の有無を問わず、誰もが“アーティスト”として扱われ、第三者からの正当な評価を受ける体験が得られるのです。

これは、子どもにとっても、保護者にとっても「対等な評価を受ける」貴重な機会。

「うちの子の作品が飾られて、知らない人が“すごいね”って言ってくれたんです」という保護者の声もあり、支援現場における新しい視点として共有されました。


民間だからこそ、できるスピードと柔軟性

本田さんはこう語ってくれました。

ムスビテラスは、国が進める「重層的支援体制整備事業」や「地域生活支援拠点整備事業」にも共鳴しつつ、制度に先んじて実装する「実験場」としての側面も持ちます。

特に中学校不登校の子どもたちへの支援、高卒後の就労準備、高齢者との共生、多文化支援など、制度だけでは解決しきれない課題を抱える地域社会にとって、このような場の存在は大きな意味を持つと感じました。


今後に向けたアイデアと連携の芽

懇談会の終盤では、今後の具体的な連携案や共催イベントの企画も話題に上がりました。

  • 夏休みにおける合同ダンスイベントの開催
  • キャリア支援・就労体験の「見える化」に向けた情報交換
  • 地域福祉連盟との定例会を通じた事業所間のネットワーク強化
  • 保護者支援としての心理検査説明会の共催 など

ムスビテラスを「ハブ」にして、さいたま市内外の福祉事業者・教育機関・医療機関といった多様なアクターが連携していく未来像が、自然と描かれ始めていました。


最後に──やりたいことは、今、ここから

本田さんは懇談の最後に、こんな言葉で締めくくりました。

「“やりたい”と思ったことは、その時、その人にしか持てない発想です。だからこそ、まず言葉に出して、誰かと共有してほしい。そこから、動き始めることがたくさんあります」
この言葉は、私たち自身の活動にも大きな示唆を与えてくれました。

制度ではなく「人」と「つながり」が福祉を動かす。
それを実感できた今回の訪問は、今後の輝HIKARIの活動にも確かな軸をもたらす時間となりました。


編集後記

参加した職員たちからは、「視野が広がった」「子どもにもっと体験させたい」「地域との連携が現実的に見えてきた」といった前向きな声が多く上がりました。

ムスビテラス東大宮の皆さま、貴重なお時間と温かな対話を本当にありがとうございました。
今後の連携企画や共同イベントについても、ぜひ一緒に育てていけたらと思っております。