多世代型介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」訪問:神戸市長田区

多世代型介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」訪問記録

日時:2025年6月30日/場所:兵庫県神戸市長田区/訪問先:(株)Happy(代表:首藤義敬氏)
同行者:山本博氏司参議院議員、(株)シーアイ・パートナーズ 家住教志代表、本田信親専務(当法人理事)


◆ 緑のビルに宿る「多世代共生」

長田区六間道商店街の一角に佇む緑色の6階建てのビル。看板はないが、子どもや高齢者、車いす利用者、外国人など多様な人が自然に出入りする姿は、まるで児童館と高齢者施設を融合させたような「開かれた家」。ここが「はっぴーの家ろっけん」である。

「誰もが幸せを感じられるコミュニティを作る」——それが株式会社Happy首藤社長の理念。40名が暮らす高齢者住宅は、外部からの出入りも自由で、地域住民や近隣の小学生など、週に約200名が訪れる。6階には首藤社長一家も居住し、まさに「大家族のような暮らし」が形成されている。


◆ 空き家から生まれる新しい暮らし

首藤氏は元々、不動産リノベーション事業者。空き家再生から福祉・住まい・就労支援へと自然と広がっていった。高齢者や障害のある方、育児中の親子など、「住まい」と「つながり」を求める人々に対して、空き家を再生して提供。介護・訪問看護も自社で運営することで、「住まい・ケア・コミュニティ」を一体で支援する体制を構築している。

例えば、「ここで死にたい」と願う高齢者に対応するため、訪問看護・介護体制を整え、看取りからお葬式まで実施。一部住民の要望で、ケアプランの枠を超えた「ハッピープラン(幸福計画)」という個別支援も実践している。


◆ ボルダリングジムに集う、子ども・障害者・高齢者

視察では、WAGOMU Climbing Gym(ワゴムクライミングジム)も訪問。靴工場跡の90坪をリノベーションしたこの施設は、「Outdoor for All」を掲げ、障害の有無に関係なく誰もが体験できる場。飲食持ち込み可能な広い共有スペースや、幼児用キッズウォール、車いす対応トイレも整備されている。障害者就労B型の利用者が、清掃やカフェ運営などの形で働いており、「遊び」「交流」「仕事」が重なる場となっている。


◆ 50棟以上に広がる拠点と仕組み

同社は現在、本社を含め50棟以上の空き家を活用した施設を長田区内に展開。グループホーム、シェアハウス、カフェ、就労支援、リノベ事業所、クライミングジムなど用途は多様。特徴は、制度の縦割りに縛られず、高齢者と障害者、親子世帯などを柔軟に受け入れる「制度外の共生住宅」である点。たとえば、有料老人ホーム等の制度下では不可能な混住や、生活支援の柔軟な対応が可能になっている。

本社ビルでは、不動産オフィス、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、フリースクール、学童、B型事業所、さらには「看取り」と「葬儀」までを包括的に提供する体制が整っている。


◆ リノベーションまちづくりと移住支援

地域資源である市場や文化財建築、空き家などを活用し、リノベーションと地域コミュニティを組み合わせた「まちづくり型福祉」を展開中。地元の若者や子育て世代が移住し、移住者自身がスタッフや利用者になっている例も多い。拠点が生活の一部(もう一つのリビング)となり、自然に住民が集う構造ができている。

今後は、漁港前の登録有形文化財建築をリノベし、地域食材を使ったレストランと宅食拠点として整備。一人暮らしの高齢者・障害者に対する「食と雇用の循環支援」も準備中である。


◆ 制度とのギャップと今後の展望

注目すべきは、これらの取組が「ほぼすべて自力」で実施されている点。福祉や子育て、生活困窮支援等の国の重層的支援制度等は、ほとんど活用されておらず、資金調達は主に銀行融資で賄われている。

訪問者側からは、制度活用によるさらなる支援拡充の提案もあった。具体的には、以下のようなアドバイスがなされた。

*NPO法人化や社会福祉法人設立による助成金・補助金の活用
*厚労省の重層的支援体制整備事業や地域生活支援拠点事業の制度連携
*日本財団や自治体補助制度の申請支援
*議員連携による政策提案・支援強化

首藤社長自身、「自分が何をしているか説明できなかった」と語りながらも、直感的に地域に必要なことを実行し、確かな結果を出している。今後、官民の制度と連携すれば、「地域福祉の新しいモデル」として全国展開も視野に入る。


◆ まとめ:幸福な暮らしを構築する「まちの設計者」

首藤社長の挑戦は、単なる空き家活用や介護事業にとどまらない。制度の狭間で生きづらさを抱えた人々——高齢者、障害者、シングルマザー、外国人、子どもたち——が集い、出会い、自然につながる「暮らしの拠点」を創り出している。住宅、介護、医療、就労、教育、葬儀まで一貫して包括するその取組は、まさに「新しい地域共生の形」を体現している。

国や自治体の制度との連携を図りつつ、今後の発展に大いに期待したいと思います。

以下は、クライミングジム「WAGOM」での首藤氏との懇談内容から


【主藤氏とのクライミングジム懇談要約】

2025年6月30日、神戸市にある「輪ゴムクライミングジム」にて、主藤氏と関係者らによる懇談が行われた。現場は単なるジムとしての機能に留まらず、地域の多世代が交わる交流の場として独特の進化を遂げており、その運営やビジョンが語られた。

■ 地域に開かれた“クライミングカフェ”の構想

現在「輪ゴムクライミングジム」として運営している施設は、来年度より「クライミングカフェ」へとリブランディング予定。目的は単にスポーツ施設としてではなく、多世代が集まり、身体を動かしながら自由に過ごせる空間の実現にある。

ソフトクリームやスイーツを提供することで、運動後の“甘味による幸福感”を演出しつつ、アルコールの提供も行い、夜間には登攀後の一杯を楽しむコミュニティ場としての活用も広がっている。

■ 新しい価値創造の仕組み

クライミングの利用料は通常2000〜3000円だが、主藤氏は1500円を適正価格と見据え、「1500円のカフェ」として打ち出し、“滞在型スポーツ空間”としての体験価値を創出しようとしている。カフェ利用者には自由にクライミングや卓球、ダーツ、トレーニングなどが可能で、スポーツと娯楽の融合を図っている。

また、「3回1000円」で登れる初回体験キャンペーンにより、会員は急増。一気に1000人規模にまで拡大したという。

■ インクルーシブな運営スタイル

この場には障害のある人、高齢者、子ども、美容師など多様な人々が訪れ、肩書きにとらわれない自然体の交流がなされている。

施設スタッフも「業務遂行」ではなく「役割と自由の共有」を実践し、「ここでは誰もが自然にその人らしくいられる」との声も上がった。子どもが自ら運営に関わることで、家族に誇りをもって関わり、主体的な居場所となっている。

また、就労支援として「見せない福祉」の形をとり、施設外就労をカフェやネットカフェ、キッチンなどに自然と溶け込ませている。

■ 福祉と空間づくりの接続点

主藤氏が福祉や不動産に関わるようになった原点は、23歳での結婚を機に“無職”だった自身が、「困っている人がいないか?」という視点から空き家活用に着手したことにある。

その過程で、高齢者が住宅改修費用を払えず施設に入らざるを得なくなった事例に直面。「住居と福祉サービスが一体化されていれば、家賃を上げずに住み続けられるのではないか」との思いが芽生えた。

この経験から、“ハードとサービスの両面を支援できる場”として「ハッピーの家(現在の複合型生活施設)」が誕生した。

■ 多層的な活動の重層構造

施設は日中・夜間問わず人が集まり、昼間は美容師の休憩利用、夜は三次会の利用もある。ビールサーバーが常備され、価格も地域性に応じて柔軟に設定(例:神戸市民600円、区民はさらに安価)。

キッチン機能の拡充も進めており、就労支援を通じた調理・提供の流れも構想中。文化財を活用した漁師との連携プロジェクトなど、多様な仕込みを地域に還元しようとしている。

■ 制度に縛られない“グレーゾーン”の価値

主藤氏は「制度化」や「補助金ありき」の福祉の限界を指摘し、あえて制度の隙間を活用することで、本当に必要な人たちがアクセスできる空間づくりを目指している。

例えば、子ども食堂を名乗ると支援が必要な子どもたちが来られなくなるため、「子ども食堂とは言わない子どもの居場所」として展開。イベント時の会計も「大人の頭割り」で行い、子どもは無料に近い形で参加できる。

■ 最終的な目標と哲学

主藤氏の最終的なビジョンは「一人暮らしコミュニティの形成」であり、その前段階として、街の中に多世代のハブを作ることで「開放と連帯のある暮らし」を提供している。

「大人の頭で整理するとつまらない。やってることはシンプルなことを徹底的に楽しくやることだ」と語る主藤氏の姿勢に、参加者からは「この人に予算を預けたい」「こういう場所こそ社会に必要」との声が相次いだ。