日本一チャレンジする町 横瀬町

このコラムは、前回の「消滅可能性自治体のチャレンジ」からの続きです。

消滅可能性自治体のチャレンジ

いま日本では少子高齢化、そして地域の人口格差による、過疎化などが問題となっています。都市集中型によっておきることは様々な課題があります。特に障害福祉サービスに…

埼玉県秩父郡横瀬町の富田能成町長のご講演で話した内容を紹介します。
横瀬町が抱える人口減少という課題と、それに対抗するための政策や活動についてまとめました。

日本一チャレンジする町 横瀬町
https://www.town.yokoze.saitama.jp/

横瀬町の概要と目指す姿

横瀬町は、埼玉県西部の秩父地域に位置する人口約7,600人の小さな町です。面積は49.49平方キロメートルで、そのうち人が住むエリアは約8割を占めます。町内には小学校と中学校が1校ずつあるものの、高校や大学はなく、中学校を卒業した若者は町外へ出てしまうため、18~30歳の若年層が構造的に減少する特徴があります。美しい棚田や観光スポット「一学の氷柱」など自然環境に恵まれていますが、最大の課題は人口減少です。このまま何もしなければ、20年後には人口が3分の2、40年後には3分の1に減ると予測されています。

横瀬町は「カラフルタウン」と「日本一チャレンジする街」という2つのキャッチフレーズを掲げています。「カラフルタウン」は、多様な幸せが花開く町、一人ひとりに合った幸せがある町を目指すもので、2019年に策定された計画の最上位目標です。これは後に日本で広まった「ウェルビング」という概念を先取りしたもので、2021年頃から行政で使われ始めたウェルビングを2年先行していました。「日本一チャレンジする町」は、戦略的にチャレンジを推進する姿勢を表しています。

◆カラフルタウンとは?
https://www.town.yokoze.saitama.jp/yokoze/mayor/4058

なぜチャレンジが必要か

町長は、チャレンジを重視する理由を3つ挙げています。まず、横瀬町は人口減少が進む「消滅可能性自治体」に指定されており、10年前と比べ若年女性の人口率が8.7%改善したものの、依然として危機的状況にあります。このままでは町が存続できないため、従来のやり方を見直し、新しい挑戦が必要です。次に、現代は先の見通せない時代であり、何が成功するかわからない中で多くのトライアルが求められます。最後に、チャレンジには人を巻き込み、元気にする力があるため、地域活性化に不可欠です。これらを背景に、横瀬町はチャレンジを戦略の中核に据えています。

あしがくぼの氷柱

町の強みと特徴を活かした戦略

横瀬町の強みは、小さな自治体であるがゆえの機動力と柔軟性、住民との一体感の作りやすさ、東京から特急電車で72分というアクセスの良さ、そして秩父地域特有の強いコミュニティです。町民体育祭には人口7,600人に対し延べ2,000人(実人数約800人)が参加するなど、地域の結びつきが際立っています。これらの特徴を活かし、町をオープンにして外部から人・物・金・情報を呼び込み、町内で化学反応を起こすことを目指しました。

その具体策として、2016年9月に「よこらぼ(横瀬町連携プラットフォーム)」を立ち上げました。これは、町を活用したプロジェクトを全国から募集する仕組みで、「この町であなたのチャレンジを実現してください」と呼びかけたところ大きな反響を呼びました。7年間で234件の提案があり、141件が採択され、実現に至っています。例として、精神科医からの提案でアール・ブリュット展やバリアフリー演劇が実施され、町に多様な人やアイデアが集まるきっかけとなりました。

成果とウェルビーイングへの取り組み

「よこらぼ」の結果、町には多様な人材やチャレンジの機会が増え、地域コミュニティや場づくりが進みました。これを基盤に、「カラフルタウン」を掲げる行政計画(前期4年・後期4年)を策定し、後期からは「ウェルビング」を明示的に取り入れました。富山県のウェルビング調査を参考に、町独自のアンケートを実施し、結果を計画に反映しています。計画は「人づくり」「健康づくり」「安全安心づくり」「産業づくり」「雇用づくり」「賑わいづくり」「景観環境づくり」「人の輪づくり」の7つの柱で構成され、各々にウェルビーイング指標を導入。例えば、「人づくり」では「子育てしやすく、子どもが生き生き暮らしている」、「健康づくり」では「心身が健康と感じている」といった目標を設定しています。しかし、客観的指標と主観的指標のバランスを取る難しさから、現在も試行錯誤が続いています。

また、民間主導で「日本一幸せの街横瀬町実行委員会」が設立され、企業版ふるさと納税を活用してウェルビーイング関連活動を支援しています。1プロジェクトあたり30万円の予算で、活動の立ち上げや伴走支援を行い、成果として「ふるさとづくり大賞」を受賞するなど評価されています。

◆ウェルビーイングとは?
ウェルビーイング (Well-being) は、心身ともに良好な状態、つまり「幸福」や「健康」を表す概念です。単なる健康ではなく、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態を指し、生活の質を高める上で重要視されています。
ウェルビーイングの定義は、世界保健機関 (WHO):健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。
ウェルビーイングの重要性は、個人の幸福:幸せな状態を維持し、生活の質を高める。組織の活性化:従業員の幸福は、創造性やパフォーマンス向上に繋がる。
社会の発展:個人の幸福は、社会全体の幸福に繋がる。

●ウェルビーイングの向上方法
・心身を整える:運動、十分な睡眠、バランスの取れた食事。
・社会との繋がりを深める:趣味やボランティア活動、友人との交流。
・目標を持つ:新しいことを学ぶ、自己成長を意識する。
・感謝の気持ちを持つ:今あることに感謝し、他人への感謝を伝える。
・マインドフルネス:今この瞬間に集中する。
*ウェルビーイングは、個人の幸福だけでなく、社会全体の幸福にも繋がる重要な概念です。自分の生活の中で、ウェルビーイングを高めるための活動を意識してみましょう。

象徴的な取り組み:バリアフリー演劇

特に印象的な事例として、劇団風によるバリアフリー演劇が挙げられます。町民会館(収容人数500人)で上演され、ほぼ満席となる盛況ぶりでした。この演劇は、耳や目が不自由な人向けに字幕や手話が提供され、大きなアクションでわかりやすく演じられただけでなく、最後に観客(車椅子利用者含む)が壇上に上がり、グランドフィナーレを共に迎える形式でした。見る側とやる側が一体となって楽しむこの体験は、「カラフルタウン」の理念を体現するものとして町長に強い印象を残しました。

大切にしている価値観と今後の展望

横瀬町が大切にするのは、「チャレンジすること」「チャレンジを応援すること」「オープン&フレンドリーであること」「他者への敬意」です。人口減少を緩和しつつ、減少しても耐えられる町を目指し、町の強みを活かした戦略と戦術を進めています。人口動態という予見可能な未来を基に政策を組み立て、外部との連携を深めながら、多様な幸せが実現する「カラフルタウン」を追求しています。町長は、このような機会を今後も大切にし、挑戦を続けていく決意を示しました。


以上が、横瀬町長の講演内容の要約です。人口減少という課題に対し、町の特徴を活かしたチャレンジとウェルビーイングの追求を通じて、持続可能な未来を描く姿勢が強調されています。