日本障害者歯科学会参加報告:「障害名ではなく、その人の生活背景を見よ」:緒方克也先生との出会いから学んだ医療福祉連携の真意
はじめに:日本障害者歯科学会・医療福祉連携委員会に参加して
日本障害者歯科学会総会及び学術大会の3日目、最終日。
私(金子訓隆)は、株式会社マイクロブレインとしても出展している口腔ケア支援ソフト「はっするでんたー」のブース対応の傍ら、ある委員会企画に参加いたしました。
その委員会の名は、「医療福祉連携委員会」。
「若い世代に立ちはだかる、障害者支援の壁」という、非常に示唆に富むタイトルが掲げられていました。

「福祉の師匠」緒方克也先生との出会い
日本障害者歯科学会にこの医療福祉連携委員会が設立されたのは2012年。
当時日本障害者歯科学会の理事長は、緒方克也先生でした。
緒方先生は、歯科医師でありながら、社会福祉法人JOY明日への息吹の理事長として、障害・福祉分野にも深く関わってこられた存在です。
私と緒方先生との出会いは、まさに口腔ケア支援ソフト「はっするでんたー」の開発がきっかけでした。
当時、息子の歯科治療の困難さから「はっするでんたー」を考案したものの、私は歯科医師でもなく、当時は障害のことも、福祉のことも全くわかりませんでした。
「息子の障害をきっかけに、医療のバリアフリーを目指したい」
その一心で、たった一人の父親が、日本障害者歯科学会のトップである緒方理事長(当時)へ直接連絡を取り、開発の監修に入っていただくお願いをしたのです。
そんな突拍子もない私の思いを、緒方先生は快く受け入れてくださいました。
口腔ケア支援ソフト「はっするでんたー」の開発にあたり、様々なご助言をいただき、社会福祉法人JOY明日への息吹の障害者歯科分野でも深く関わりを持たせていただきながら、多くの先生方をご紹介いただき、監修に参加して頂き学ばせて頂きました。
開発は日本国内にとどまらず、台湾、韓国、ドイツなどへもご一緒し、先生から様々なことを学ばせていただきました。
今では、私、金子訓隆にとって緒方克也先生は「福祉の師匠」とも呼べる存在です。
自分が福祉支援で悩んだ時にはすぐに緒方先生へ連絡し、ご助言をいただきながら自分の考えをまとめてきました。
「障害名ではなく、その人の生活背景を見よ」
その緒方先生がつくられた「医療福祉連携委員会」で、会場はほぼ満席で、特に若い歯科衛生士や歯科医師の方々が多く参加されているのが印象的でした。
参加者にマイクを渡しながら、障害者歯科についての様々な意見を取り入れていくスタイルで、初めて学会に参加する方、今年の春から関わり始めた方など、若手のチームを集めて未来の障害者歯科を担う人材を育成しようという熱気を感じました。
今まで日本の障害者歯科、特に医療福祉連携の推進を支えてきた先輩方が、若手を育成するという新しい形になりつつあるのです。
この委員会で私が最も心を揺さぶられたのは、緒方克也先生の最後の挨拶でした。
「歯科治療におけるカルテの中では、『ダウン症』『自閉症』などの障害名が記載されているだけで、そのまま治療を進めているケースがある。しかし、障害名だけではわからない。その人の生活背景まで見て治療を進めなければならない。」
緒方先生は、障害者の方への歯科治療は「福祉の行為の一部」であり、その方の特性や生活背景、そして様々な分野との連携がとても重要であると力説されていました。

当事者家族として痛感した「相互理解」の重要性
私も、息子が障害を持つまでは、福祉のことは全くわからない一人でした。
その息子が成長する中で、就学の問題、医療の問題、様々な社会の壁にぶつかった時、学校の先生方、地域の福祉団体、支援施設との「連携」の重要性を痛感しました。
私たち保護者は、「こちら側のことをわかってほしい」と一方的に思いがちです。
しかし、それだけではなく、その分野で尽力してくださっている専門家の方々に対し、私たちも「わかってもらうための努力」をし、「間口を広げる」ことが必要です。
相手の気持ちや状況までも、こちらが理解しようと努める。
一番大切なことは「相互理解」です。
そこに初めて、当事者に対する本当の「寄り添い」が生まれ、社会の中で生活していくための学校との連携、医療との連携が機能し始めると信じています。
“プロ”に頼り、協力する姿勢が道を開く
この口腔ケア支援ソフト「はっするでんたー」の開発と普及活動の中で、私は医療側からの様々な支援のあり方を学ぶことができました。
「学校」や「病院」というもののハードルを高く感じてしまっているのは、実は私たち福祉側・保護者側の立場が、勝手にそう思い込んでしまっている部分もあります。
教育の分野、医療の分野、そこにおいて、先生方は「その道のプロ」であるということを、私たち保護者はまず認め、敬意を払う。そして、お願いし、頼り、協力する。
そういう姿勢の中にこそ、当事者の道が開けてくると私は思います。
息子が軽度知的障害を伴う自閉症と診断されてから16年、親としての立場を訴えつつも、我が子を支援してくださる方々への敬意や感謝を忘れずに接してきたつもりです。
制度改革も、その一つです。
制度の不備や様々な問題は確かにあります。しかし、そこを愚痴として言っても何も解決しません。
大切なことは、「具体的に、何を、どのように困っているのか」「その支援をする人たちに、どう助けて欲しいか」。
そこを明確にして伝えていくことが、その道が開けてくる唯一の方法だと思います。
おわりに
今回参加した医療福祉連携委員会では、改めてそのようなことを考えながら、懸命に障害者歯科治療に励もうとする歯科医師、衛生士、歯科助手の方々に深い敬意を表しながら、拝聴いたしました。


