[発表概要]障害者による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に関する協議の場:内閣府
先日の活動報告でも公開しましたが、20日午後からは、内閣府が主催する「協議の場」として開発者の金子訓隆(株式会社マイクロブレイン・特定非営利活動法人輝HIKARI代表理事)が発表の場の機会を頂きました。
内容は「障害者による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に関する協議の場」です。
Web会議により開催されました。
<1.開会>
<2.知的・発達障害に関する取組>
(当事者団体)
・一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会
・日本発達障害ネットワーク
(業界団体)
・株式会社マイクロブレイン
(質疑応答・議論)
<3.情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実に係る施策の進捗状況>
関係省庁説明
デジタル庁・総務省・厚生労働省・経済産業省
各省庁発表後、協議
<4.閉会>
で進行されました。
なお、本会議は、主に「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が協議となっておりました。
後日、内閣府から正式な資料が公開されると思いますので、本活動報告では、(業界団体)・株式会社マイクロブレインとして、金子代表理事が発表した内容について報告いたします。
講演原稿要約:「もう歯医者さんは怖くない」 – 発達障害児者の歯科治療を支えるデジタル絵カードシステム「はっするでんたー」について
導入部
本講演では、知的障害や自閉症スペクトラム障害を有する発達障害者に対する歯科医療の課題と、その解決策として開発された支援ツールについて考察する。歯科治療は一般的に高いストレスを伴う医療行為であり、特に発達障害者は治療器具への不安、未知の環境、騒音への過敏反応からパニックを誘発しやすい。これにより、従来の方法では全身麻酔や身体拘束(レストレイナー)が用いられることがあり、患者に深刻な負担やトラウマを与え、治療拒否を招くケースが散見される。開発者自身の子どもの経験に基づき、この問題を解消するためのデジタルツール「はっするでんたー」が提案される。
開発のきっかけと「医療のバリアフリー」の実現
「はっするでんたー」の開発は、開発者の長男(当時5歳、IQ68の軽度知的障害を伴う広汎性発達障害)の歯科治療体験に端を発する。虫歯治療中に未知の器具と環境が原因でパニックを起こし、身体拘束が施された結果、治療中断とトラウマが生じた。この出来事から、地域での安心した医療アクセスを確保する「医療のバリアフリー」の必要性を痛感した。厚生労働省の専門官の紹介により、日本大学松戸歯学部附属病院の特殊歯科を訪れ、障害者歯科の専門医と出会う。同医は、拘束を避け、信頼関係構築、器具遊び、絵カードによる治療見通し提示により不安を軽減する手法を実践していた。これをデジタル化する着想を得たが、従来の紙製絵カードはイラストと実物の不一致、制作の煩雑さから限定的であった。システム開発者としての経験を活かし、個別対応可能なデジタルツールを構想したものの、資金・協力者の不足が課題となった。そこで、厚生労働省の「障害者自立支援機器等開発促進事業」(平成24年度二次募集)に申請。患者・医療現場の困難と個人体験を強調し、採択された。これにより、国庫事業の信頼性を背景に、多様な専門家の協力を得ることができた。
「はっするでんたー」の機能と効果
「はっするでんたー」はiPad対応のデジタル絵カードシステムであり、臨床現場のフィードバックを繰り返し反映し、写真・動画・音声による治療可視化を実現した。治療の流れや器具の用途を視覚・聴覚的に提示し、不安を緩和する。主な機能は以下の通りである。
- リアルな情報活用とカスタマイズ性: iPadカメラで即時カード作成が可能。治療器具の写真を活用し、具体的な説明を提供。初期搭載の496枚の絵カードを基に、患者の特性に合わせた選択・並べ替え・保存を行い、個人専用セットを構築できる。
- 操作性と主体性促進: Bluetoothフットスイッチにより、治療中の手を使わずカード操作が可能。患者自身がタブレットを操作し、治療進捗を把握させることで、見通しを与え、参加意識とモチベーションを向上させる。
- 多職種連携と利用範囲拡大: 岡山大学病院、大阪大学歯学部附属病院、長崎大学、奥羽大学、各県口腔保健センターなどの専門家が監修。歯科医院以外に家庭・療育施設での口腔ケア指導に活用可能。作成したカードセットはAirDrop経由でiPhoneアプリ「HDびゅあー」に転送し、自宅予習を支援。「HDびゅあー」は無料公開されている。
これらの機能により、発達障害者の歯科治療を非侵襲的に支援し、負担を最小限に抑える効果が期待される。
社会的評価と今後の展望
「はっするでんたー」は国内外で高い評価を得ている。2014年11月1日の毎日新聞掲載とYahoo!トップニュース露出、MACFAN誌の特集により注目を集めた。国際的には、2014年のドイツ・ベルリン国際障害者歯科学会でのポスター発表・実機展示、2015年の台湾、2016年の韓国障害者歯科学会での展示を実施。多言語対応(iPad言語切り替えで英語版起動)により、将来的な各国言語拡張を計画。国内では、平成30年度テクノエイド協会の「好事例賞」受賞、2013年からの11年連続ニーズシーズマッチング交流会出展、2014年からの10年連続日本障害者歯科学会出展を果たし、本年も予定されている。現在、全国約400カ所の大学病院・口腔保健センター・一次医療機関に導入され、県歯科医師会研修会で普及が進む。障害者差別解消法の精神に則り、インクルーシブ社会の実現を目指し、発達障害児と保護者が地域で安心して歯科治療を受けられる環境を構築する。開発者は「どの地域でも泣かずに通える歯医者」を目標に、医療バリアフリーの貢献を継続する意向である。
ご清聴ありがとうございました。