障害者優先調達推進法を活用した共同受注のモデルケース:えひめICTチャレンジド事業組合の挑戦と展望
障害者優先調達推進法を活用した共同受注のモデルケース:えひめICTチャレンジド事業組合の挑戦と展望
5日は愛媛県松山市にある、えひめICTチャレンジド事業組合を訪問。
この訪問には、大阪市のCIパートナーズの平安名執行役員と、TECTEC CREATIVE 天王寺 就労支援事業本部 の林マネージャーも同席。IT業務の共同受注窓口の運営と取り組みについて、川崎理事長(NPO法人ぶうしすてむ理事長)からお話を伺いました。

障害者優先調達推進法を活用し、愛媛県からICT関連業務を中心に一括で受注、加盟する事業所に仕事を分配することで、障がい者の工賃向上と就労機会の創出に繋げている「えひめICTチャレンジド事業組合」。その先進的な取り組みを大阪で展開するため、CIパートナーズの社員と輝HIKARIの金子訓隆氏が、同組合の川崎理事長に話を伺った。この会議では、共同受注窓口設立の経緯から、事業モデル、運営上の課題、そして今後の展望まで、多岐にわたる議論が交わされた。
共同受注窓口、成功の軌跡
会議の冒頭、川崎氏は組合設立の経緯を語った。当時、全国で3県だけ共同受注窓口が設置されておらず、その一つが愛媛県だった。県庁に設置を働きかけるも「向こう3年は作る予定がない」と即答されたことが、自ら窓口を立ち上げるきっかけとなった。
「行政が発注するにしても、障がい者施設が何をどれだけの品質・量でできるのか、どこに頼めばいいのか、情報が全くない。これでは仕事が来るはずがない」。そう考えた川崎氏は、元々付き合いのあったIT系の事業所に声をかけ、11の事業所で活動を開始。当初は法人格も持たない任意団体だったが、行政との契約には法人格が必須であるため、1年以内に一般社団法人格を取得した。
事業は、テープ起こしやデータ入力といった単価の安い仕事から始まった。しかし、一つひとつの仕事で着実に実績を積み重ねることで、県の障害福祉課だけでなく、経済労働部など様々な部署から声がかかるようになり、徐々に信頼を勝ち取っていった。近年では、大きな事業も受託できるまでに成長。一度大きな実績を作ると、それが公表され、次年度への期待という良いプレッシャーが生まれ、それが起爆剤となって県全体で発注の動きが活発化したという。
組合の運営は、加盟事業所から年会費数千円と、売上からを事務局の運営費として徴収することで成り立っている。当初は赤字続きで、川崎氏自身の会社が持ち出しをする状況だったが、7年を経てようやく売上が安定して、事務局に1人分の人件費を捻出できるようになった。
事業モデルと運営の実際
えひめICTチャレンジド事業組合の強みは、その柔軟な受注体制にある。ITや印刷といった専門分野だけでなく、授産製品の販売会の企画・運営、工賃向上のためのセミナー開催など、幅広い事業を展開。当初はITと印刷に特化していたが、県から全体のまとめ役を依頼されるようになり、活動の幅が広がった。
仕事の受注から納品までの流れは、案件によって異なる。例えば、印刷業務では、複数の加盟事業所から見積もりを取り、最も安い価格を提示した事業所に発注。その価格に組合の利益を上乗せしてクライアントに提出する。一方、ウェブサイト制作など専門性の高い仕事は、川崎氏自身が初期対応をすることが多いが、徐々に担当者に権限を委譲している。
運営における最大の課題は、ITスキルと障がい者支援の両方を理解した人材の確保だ。川崎氏は、「ITの知識だけでなく、働くメンバーの特性や体調、指示の出し方まで分かっていないと難しい。この事業が全国的に広がらないのは、そこが一番のネックではないか」と指摘する。
また、仕事の波をどう乗り越えるかも重要な課題だ。急な依頼や、メンバーの体調不良による人員不足は日常茶飯事だ。そのため、組合内で対応できない場合は、他の事業所や企業と連携し、外注することも厭わない。「断ったら次の仕事はない。緊急事態には手段を選ばず、何らかの形で納品することが信頼に繋がる」と川崎氏は語る。IT系の仕事は場所を選ばないため、全国の事業所とネットワークを組むことで、リスクを分散している。
大阪での展開に向けたアドバイス
大阪での展開を目指すCIパートナーズに対し、川崎氏は具体的なアドバイスを送った。大阪には既に共同受注窓口が存在するため、愛媛とはアプローチが異なる。
「すでにある窓口と敵対するのではなく、連携することが重要。こちらがIT系に特化し、清掃や除草作業などの仕事が来たら既存の窓口に紹介する。逆もまた然り。そうした棲み分けと連携ができれば、良い関係が築けるはずだ」。
また、行政からの仕事獲得については、「とにかく実績を一つひとつ積み上げていくしかない」と強調。パンフレットやウェブサイトでの広報も重要だが、それ以上に、一つの仕事で信頼を得ることが、口コミや紹介に繋がり、次の仕事を生む。特に、行政は職員の異動が多いため、担当者が別の部署に異動しても、そこから新たな仕事に繋がるケースも少なくないという。
DX推進という追い風
川崎氏は、「紙媒体の電子化は、行政内での優先順位が低いとされてきた。しかし、国からの通達が出れば状況は変わるはずだ」と期待を寄せる。実際に、同組合でも松山市の記念博物館のアーカイブ化を手がけ、単純なデジタル化からウェブサイト制作へと仕事が発展した実績がある。「最初はハードルの低い仕事から入り、実績を評価してもらうことが、より高度な仕事の受注に繋がる」と、その重要性を説いた。
まとめ:持続可能なモデルの構築に向けて
えひめICTチャレンジド事業組合の成功は、一人の情熱と、それに賛同した仲間たちの協力、そして地道な実績の積み重ねによって成し遂げられたものだ。当初は公的な機関が運営する方が理想的だと考えられていた共同受注窓口だが、結果として、事業所が主体となって運営することで、補助金に頼らない持続可能なモデルを構築できた。
川崎氏が語った「断らない姿勢」「実績の積み重ね」「横の連携」という原則は、これから大阪で新たな挑戦を始めるCIパートナーズにとって、大きな指針となるだろう。また、DX推進という大きな波は、障がい者就労の可能性を大きく広げる追い風となるに違いない。今回の会議は、障がいのある人が、それぞれの能力を活かして社会に貢献し、経済的に自立していくための、具体的かつ実践的な方策に満ちた、実り多い議論の場となった。