「障害者デジタルしごと応援事業」(日本財団)について全国地域生活支援ネットワークの方々と意見交換:赤坂
2026年5月12日(月)午前 日本財団本部
Ⅰ.会議の背景と目的
山本博司氏(日本財団アドバイザー・前参議院議員)が主導する「障害者デジタルしごと応援事業」について、全国地域生活支援ネットワークの理事長・副理事長ら及びNPO法人輝HIKARIの金子代表理事を交え、鹿児島県・埼玉県への展開可能性を中心に意見交換が行われた。
山本氏は参議院議員時代から障害者就労・工賃向上を長年のライフワークとし、議員勇退後は日本財団アドバイザーに就任。この事業の全国展開を精力的に推進している。意見交換の前日(5月11日)には、公明党国会議員らとともに東京コロニー(東村山)および江戸川区の拠点「デジタルラボえどがわ」を視察済みであり、12日には公明新聞にも掲載されたことを紹介。その直近の実態を踏まえた実践的な議論が展開された。

Ⅱ.事業概要の説明(山本アドバイザー・村上氏)
村上智則氏(日本財団 国内事業開発チーム)より、資料に基づき事業の経緯と現状が説明された。
- 2016年頃から日本財団の障害者就労支援が工賃向上にフォーカスし、全国約30か所でモデル事業を展開
- 2021年度より国立国会図書館の蔵書デジタル化業務を開始。東京コロニーとのトライアルでは民間大手(凸版印刷・三井倉庫等)を上回る品質(エラー率0.05%以下)を達成
- 2023年度、政令改正により「優先調達」の対象に認定
- 2025年度から優先調達として約6億5000万円・約1000万コマ規模の発注を受け、全国13拠点が稼働(青森〜熊本)
- 平均工賃は当初の2万円前後から7〜8万円(施設によっては15万円超)に大幅向上
- 2023年度からは福岡県と連携協定を締結し、行政文書のデジタル化にも着手
Ⅲ.全国地域生活支援ネットワーク各理事長からの質問・意見
1. 優先調達の仕組みと自治体の関わり方(岡部理事長・清心会)
「各都道府県単位での発注は、国が関与する形とは違うのか。優先調達との兼ね合いはどうなるのか」
回答として、国立国会図書館分は日本財団が間に入るが、行政文書の案件については法人と自治体の直接契約が基本であることが説明された。福岡では福岡コロニーが福岡県庁と直接契約を結び、日本財団は機器等の提供のみで関与している。新規地域も同様のスキームで、知事レベルでの県単位での協定締結を先行させ、その後は法人と行政が直接の発注関係に入る形が標準的であることが共有された。
2. セキュリティ・情報漏えいリスクへの懸念(岡部理事長・清心会)
「行政文書には均一性の高いものもある。情報漏えいや、意図せずに資料を破損してしまうリスクへの対処はどうなっているのか」
国立国会図書館の作業仕様は業界最高水準であり、書庫から作業室・納品に至るすべての動線にカメラが設置され、入退室管理も徹底していることが説明された。この仕様をクリアした実績が、他省庁・民間企業からの受注に対する最大の信頼保証になっており、岡部理事長もこの点を評価した。設備(カメラ・耐震倉庫・温湿度管理等を含む)は1拠点あたり約1億円を要するが日本財団が100%助成する。
3. スキャナー台数・必要スペース・人員規模(岡部理事長・清心会)
「スキャンをする機械は、1拠点に何台ぐらい置いているのか」
標準構成としてスキャナー9台・作業員20〜25名・面積約200㎡が示された。1台につき2〜3名が関与し(スキャン・前後工程の品質確認)、部屋の仕切りも可能であることが確認された。
4. 施設改装 vs. 新築(岡部理事長・清心会)
「既存施設を改装する形が多いのか、ゼロから建てるのか」
既存建物の一部を使うケースが多いが、耐震・耐熱倉庫の整備やネットワークインフラの構築が必要であり相当の工事が伴う。ゼロ建設は行政との強い意思の一致が不可欠で、江戸川区(建設費2.6億円を100%助成)はその例外的事例と位置づけられた。
5. 一法人単独では持続が難しい(岡部理事長・清心会)
「持続性を考えると、一法人だけで抱えるのはリスクが高い。共同体でやっていけるのが一番ではないか」
山本氏・村上氏ともに同意。実際につまずいている単独法人の事例も存在する。福岡の共同体モデル(複数事業所が中央拠点に施設外就労で集まる方式)は、財政当局への説明においても「地域への波及効果」として訴えやすく、行政が動きやすいと評価された。山本氏は「共同体として財団とのご縁を活かした取り組みができれば」と呼びかけた。
6. 障害特性と業務マッチング(岡部理事長・清心会)
「障害種別として、精神の方が向いているのか」
工程別に異なり、前工程(袋出し・整列・ほこり払い)は重度知的障害の方でも対応可能、スキャン工程は軽度〜中度の知的障害の方が中心(「ハマる人はとことんハマる」という定着例も多い)、後工程(データ確認・変換)は精神・発達障害の方に親和性が高いとされ、三障害ミックスの分業体制が各拠点で有機的に機能していることが確認された。
7. 鹿児島での展開可能性(水流理事長・ゆうかり)
「セルプ協に属してはいないが、友人にはいる。引っ張り込んでシンクロさせた方がいいのか、単独で動いた方がいいのか」
山本氏から「どちらでもよい、ケースバイケース」との回答があった。まず社会福祉法人ゆうかりが中心となって鹿児島県・市と連携協定のパイプを作り、将来的にセルプ協との連携に広げるステップが現実的との見解が示された。一方、鹿児島市副市長に接触した際「デジタル化は全然考えていない」という反応があったことも水流理事長から報告され、行政の意識格差が課題として浮き彫りになった。
山本氏は、鹿児島県知事(山田氏、経産省出身)はデジタルへの感度が高いとみており、松田県議・宮城衆議院議員ら政治ルートを活用した県レベルのトップ交渉を先行させ、次のステップとして視察・意見交換の場を設定する方向で検討することを提案した。
Ⅳ.埼玉県での事業推進に関する詳細な意見交換
1. 埼玉県の工賃低迷と「B型拡大ステーション」
埼玉県のB型事業所の平均工賃は47都道府県中44位前後という深刻な状況にあり、これを受けて2024年4月から埼玉県・さいたま市が共同で「B型拡大ステーション」事業を開始した。年間予算約2100万円、5カ年計画(現在3年目)で推進している。
現在、県職員が東村山・福岡の拠点を繰り返し視察中であり、県として行政文書のデジタル化案件を発注する方向で推奨している状況にある。
2. 実施上のハードルと段階的な参入構想
「5か所を見学したが、非常に高度なハードウェア環境が必要。ITに少し分かる人間がいないと難しい」
文書管理1級の資格取得やセキュリティ対応のITインフラ整備、東京コロニーへの3か月研修(確立されたマニュアルに基づく)などが必要であることが整理された。拠点の場所はまだ未定だが、県有施設の改装・活用が想定される。
参入の順序としては、まず行政文書のデジタル化でオペレーション・セキュリティ体制を整え、慣れてから国立国会図書館案件に移行する段階的アプローチが現実的との見方が共有された。
3. 拠点配置のあり方に関する提言
「さいたま市近辺の集中ではなく、東松山方面にも1か所置くべきでは。福岡モデルのように、いろいろな事業所から利用者を集めてチームワークを組む形が埼玉でも有効ではないか」
県内2か所程度の拠点整備が理想という提言がなされた。一方が都市部(さいたま市周辺)、もう一方が東松山・岡部理事長(清心会)の活動地域など郊外エリアに置くことで、福岡モデルと同様に複数法人から施設外就労で利用者を集め、分担作業する地域波及型のスキームが構築できるとの展望が示された。この提案は山本アドバイザーにも事前相談済みで、今回の参加者への呼びかけの背景にもなっていた。
Ⅴ.工賃向上の意義と全国展開に向けた課題
平均工賃5.5〜7.5万円台と障害基礎年金2級を合わせることで生活保護水準を超える生活設計が可能になるという具体的な試算が示された。山本氏は、国立国会図書館は約4300万点の蔵書を抱えており当面は仕事量を確保できるとしながらも、長期的には他省庁・最高裁判所の判例資料・地方行政文書・民間企業のデジタル化案件へと展開していく必要性を強調した。
全国展開には政治的な後押しが不可欠との認識も共有された。成長戦略の骨太方針への明記や、自治体が動きやすくなる交付金の仕組みづくりなど、政策面での環境整備を引き続き進めていくことが山本氏の役割として確認された。







