強度行動障害支援の最前線へ――国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」を視察しました
本日2日、群馬県高崎市にある独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」を視察いたしました。私ども輝HIKARIとしては、2023年の視察以来、2度目の訪問となります。
今回の視察は、山本博司前参議院議員、そして日頃から連携させていただいている社会福祉法人 岩手ひだまり会の鈴木偉作副理事長、佐藤信義企画推進室長、また輝HIKARIからは大谷貴志理事も同行し、合同での視察・意見交換の機会となりました。
目的は「強度行動障害者支援および児童支援の先進的な取り組み」を肌で学び、私たちの今後の支援現場へ還元することです。
成人と児童、それぞれの強度行動障害支援を学ぶ
最初に、田中正博理事長、古川慎治理事らより、のぞみの園の概要や、成人と児童における強度行動障害支援の具体的なアプローチについてお話を伺い、活発な意見交換を行いました。
その後、実際の支援現場である2つの施設を見学させていただきました。
1. 成人期支援の現場:「かわせみ寮」
10名の方がユニット制(6人用・3人用・個室)で生活されている「かわせみ寮」を拝見しました。
ここでは、個々の綿密なアセスメントに基づいたスケジュール管理や、視覚的要素を整理して本人が迷わないための工夫など、「ハード(環境)とソフト(関わり方)の両輪のバランス」が徹底して整えられており、大変感銘を受けました。
特に印象的だったのは、入所前の激しい自傷や他害といった非常に厳しい状態から、適切な支援によって変化を遂げ、やがて退所されていく姿を収めたビデオです。「ここまで人は変われるのか」と、その支援の力に深い驚きと希望を覚えました。
2. 子ども期の予防と支援:児童発達支援センター「れいんぼ~」
続いて、星野亜紀子管理責任者のご案内のもと、児童発達支援および保育所等訪問支援事業の取り組みを見学しました。
「れいんぼ~」の最大の強みは、のぞみの園の診療部と密接に連携している点です。医師、臨床心理士、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、保育士といった多職種の専門スタッフがワンチームとなり、子どもたちの発達を多角的にサポートしています。
ここには強度行動障害児のクラスも設けられており、症状が深刻化する前の「予防」の段階からシームレスに対応されている素晴らしい支援体制に、改めて圧倒されました。
視察を終えて
今回の視察を通じて、幼児期からの早期の専門的アプローチと、成人期における環境・関わり方の構造化がいかに重要であるかを再認識いたしました。
のぞみの園の皆様、そしてご一緒させていただいた山本前議員、岩手ひだまり会の皆様に心より感謝申し上げます。今回得た多くの学びと感動を、輝HIKARIの放課後等デイサービスや児童発達支援の現場にしっかりと活かし、子どもたちとご家族へのより質の高い支援へと繋げてまいります。
独立行政法人 国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」について
日本の重度知的障害者福祉において、政策的な拠点・モデルとしての役割を担う日本唯一の国立施設です。
群馬県高崎市に約232万平方メートル(東京ドーム約50個分)という広大な敷地を持ち、厚生労働省が所管する独立行政法人として運営されています。
のぞみの園の主な役割と特徴は、以下の3つの柱に集約されます。
1. 先導的・総合的な直接支援(モデルケアの実践)
施設内では、重度の知的障害がある方々への施設入所支援や生活介護だけでなく、時代のニーズに合わせた様々な先導的ケアを実践・提供しています。
- 高齢化・医療ニーズへの対応: 利用者の高齢化に伴う生活習慣病、認知症の発症などに対し、絵カードを用いた分かりやすい診察を行うなど、医療と福祉が連携した高度なケアを行っています。
- 多様な日中活動と地域連携: 就労継続支援B型でのしいたけ栽培や、児童発達支援・放課後等デイサービス、共同生活援助(グループホーム)など、多機能な福祉サービスを展開しています。
2. 全国へ発信するための「調査・研究」
単なる入所施設にとどまらず、現場での実践をもとに「知的障害者福祉のシンクタンク」としての機能を持っています。
- 重度知的障害者の「地域生活移行(施設から地域へ)」をスムーズに進めるための課題抽出と対策の研究
- 行動障害がある人への効果的な支援手法の開発
- 高齢化に伴う認知症対応のガイドライン作成など、全国の福祉事業所が活用できる実践的な研究成果を国や自治体へ発信しています。
3. 福祉人材の「養成・研修」および助言
全国の障害者支援施設で働く職員や専門職を対象とした研修・セミナーを定期的に開催し、日本の障害福祉全体のボトムアップ(底上げ)を図っています。また、他の法人が重度者支援や地域移行で課題に直面した際、専門的な援助や助言を行うコンサルティング的な役割も担っています。
歴史的な背景と方針の転換
1971年に「国立コロニーのぞみの園」として開園した当初は、終生にわたり安心・安全に暮らせる「終の棲家」としての性格が強い大規模施設でした。
しかし、時代の潮流が「施設隔離から地域共生へ」とシフトしたことに伴い、2003年の独立行政法人化を機に方針を大きく転換。現在は**「利用者の地域移行を全力で推進し、そのプロセスで得たノウハウを研究・全国へ還元する最先端モデル施設」**として機能しています。
強度行動障害(きょうどこうどうしょうがい)とは、自傷行為(自分の体を傷つける)や他害行為(他人に暴力を振るう)、物壊し、激しいパニックなどが通常では考えられない頻度と大がかりな形で現れ、本人の安全な生活や家族・支援者の日常生活が著しく困難になっている状態を指します。
医学的な「病名」ではなく、障害の特性と周囲の環境(関わり方や物理的環境)が噛み合わないことによって生じる「状態像」を表す言葉です。
主な行動症状
具体的には、以下のような行動が激しく、かつ持続的に現れます。
- 自傷行為: 自分の頭を壁に激しくぶつける、自分の顔を叩く、皮膚をかきむしる。
- 他害行為: 突然、周囲の人を叩く、髪を引っ張る、噛みつく。
- 破壊行為: 壁に穴をあける、窓ガラスを割る、衣服を破り続ける。
- その他の行動: 激しいこだわり、睡眠障害(昼夜逆転)、大声での叫び、異食(食べられないものを口に入れる)。
なぜ、こうした行動が起こるのか?
かつては「本人のわがまま」や「親の育て方」と誤解されることもありましたが、現在は「本人が発しているSOSのサイン」であると理解されています。
1. 「伝えられない」もどかしさ
強度行動障害の多くは、重度の知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)を伴います。言葉で「お腹が痛い」「ここから離れたい」「何をすればいいか分からない」といった気持ちや体調不良を伝える手段を持たないため、激しい行動で表現せざるを得ない状況にあります。
2. 感覚の過敏さと環境の不一致
周囲の騒音、視覚的なごちゃつき、急な予定変更などが、本人にとって耐えがたい恐怖や苦痛(パニック)を引き起こす原因になります。
判定基準(福祉サービスでの位置づけ)
障害福祉サービス(行動援護や加算の算定など)を利用する際、専門の判定基準が用いられます。
強度行動障害の評価基準(12項目)
「自傷」「異食」「他害」「おちつきのなさ」「睡眠の乱れ」などの12項目について、その頻度や激しさを点数化します。
- 合計10点以上(日常生活に著しい支障がある状態)になると、行政上「強度行動障害」に該当すると判定されます。
支援のあり方(閉じ込めるのではなく、環境を整える)
かつては身体拘束や隔離といった不適切な対応が取られることもありましたが、現在の障害福祉では「環境調整」と「コミュニケーション支援」が基本です。
- 構造化(見通しを立てる): 「いつ、どこで、何をするか」を写真や絵カードを使ってスケジュールで見える化し、本人の不安を減らします。
- 代替コミュニケーションの獲得: 言葉の代わりに、絵カードを渡すことで「休憩したい」「お茶を飲みたい」と伝えられる練習(PECSなど)をします。
- 専門人材の育成(国の施策):全国で「強度行動障害支援者養成研修(基礎・実践)」が実施されており、適切な支援知識を持つ人材の育成が急ピッチで進められています。先述の「のぞみの園」なども、こうした困難な事例に対する支援ノウハウの研究や研修において中核的な役割を果たしています。











